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新潟地方裁判所 昭和59年(ワ)598号 判決 1988年6月06日

原告

佐藤茂

右訴訟代理人弁護士

中村洋二郎

中村周而

土屋俊幸

金子修

上条貞夫

川上耕

工藤和雄

鈴木俊

高橋勝

足立定夫

味岡申宰

被告

株式会社第四銀行

右代表者代表取締役

中村正秀

右訴訟代理人弁護士

石田浩輔

坂井煕一

安西愈

斉木悦男

井上克樹

右被告訴訟代理人弁護士安西愈訴訟復代理人弁護士

外井浩志

主文

一  原告の請求の趣旨第1項の請求及び第2項の主位的請求をいずれも棄却する。

二  原告の請求の趣旨第2項の予備的請求を却下する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、昭和五九年一二月一〇日以降昭和六二年一二月一〇日まで別紙債権目録の各支払年月日欄記載の年月日に、同目録各(C)差額欄記載の金員及びこれに対する右各支払年月日欄記載の日の翌日以降支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

2(一)  主位的請求

原告が被告との間に、昭和六二年一二月一一日以降昭和六四年一二月一〇日まで別紙債権目録の各支払年月日欄記載の年月日に、同目録各(A)欄記載の賃金の支払を受けるべき労働契約上の地位を現に有することを確認する。

(二)  予備的請求

原告が被告との間に、昭和六二年一二月一一日以降昭和六四年一二月一〇日まで別紙債権目録の各支払年月日欄記載の年月日に、同目録各(B)欄記載の賃金の支払を受けるべき労働契約上の地位を現に有することを確認する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  右第1項につき仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の申立

(一) 本件訴え中、請求の趣旨第1項のうち将来の給付を求める部分及び請求の趣旨第2項に係る部分を却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  本案の答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者等

(一) 原告は、昭和四年一一月四日生まれの男性であり、昭和二八年四月一日に被告株式会社第四銀行(以下「被告銀行」という。)に入行し、昭和五九年一二月現在の資格は、主事二級であり、役職は、昭和五四年八月一日から融資第一部部長補佐の職にある。

そして、原告は、昭和五九年一一月四日に満年齢で五五歳に達している。

(二) 被告銀行は肩書地に本店を有し、普通銀行業務、貯蓄銀行業務及びこれらに付随する業務を営む銀行であり、昭和五九年三月末現在の営業概要は次のとおりである。

資本金  一三〇億円

預金高 一兆五七二五億一三〇〇万円

(地方銀行中第一八位)

従業員数 三五二〇人

店舗数  一三四店

当期利益 四三億円

被告銀行は明治六年、第四国立銀行として設立され、明治二九年、国立銀行の営業満期とともに普通銀行として商号を株式会社新潟銀行と改め、大正六年現在の商号である株式会社第四銀行と改称して現在に至っており、その営業歴は、一一一年とわが国最長であり、この間県内最大の資金量を擁する銀行となっているほか明治七年、新潟県公金取扱を開始して以来、若干の中断はあるが、これまで県公金の事務を取扱っており、現在、県の指定金融機関であると同時に、多数の市町村の指定金融機関である。

(三) 被告銀行と、同銀行の従業員が組織する訴外第四銀行従業員組合(以下「従業員組合」という。)との間の協定においては、部長補佐の役職にある行員は、非組合員となることとされている。

2  六〇歳定年制の導入

被告銀行においては、昭和四〇年九月一〇日改正の就業規則第五九条に「職員の停年は満五五歳とする。但し、願出により引続き在職を必要と認めた者については、三年間を限度として、その停年を延長することがある。」との規定があったが、被告銀行は、昭和五八年四月一日、この規定を「行員の定年は満六〇歳とする。」と変更し、同日から概略次のとおりの六〇歳定年制(以下「本件定年制」という。)を実施した。

(イ) 定年年齢 六〇歳

(ロ) 実施日 昭和五八年四月一日

(ハ) 実施方法 昭和五八年四月一日以降満五五歳に達する行員から定年年齢を満六〇歳に延長する。

(ニ) 職位 役職者については満五七歳以降原則として新設する参事役、副参事役、業務役、副業務役につく。意欲、体力、能力があれば部店長等の役職にとどまり得る。

(ホ) 給与等

(a) 定例給与 本俸のうち一律五万五〇〇〇円を加算本俸とし、その余を基本本俸とし、満五五歳達令日の翌月一日以降は加算本俸を支給しない。資格手当及び扶養親族手当は従来通り支給する。役付手当は新設する職位を含め従来の役付手当を職位に対応した手当に改定し支給する。

(b) 賞与 年間定例給与の三か月分程度を支給する。

(c) 定期昇給 実施しない。

(d) ベース・アップ 実施する。

(ヘ) 退職金 従来の五五歳定年時水準に五年間分の特別慰労金分を加算した額を満六〇歳定年時に支給する。

(ト) 年金 従来の水準を下回らないものとする。

(チ) 福利厚生 原則として現行諸制度を継続適用する。

3  しかしながら、右就業規則の変更による本件定年制の実施は、以下に述べるとおり、原告の既得の権利を奪い、一方的に労働条件を不利益に変更するものであるから、原告に対してはその効力を生じないものである。

4  実質満五八歳定年制

(一) 実質満五八歳定年制の確立の歴史

(1) 被告銀行では、昭和二一年八月二八日、第四銀行職員組合(以下「職員組合」という。)が結成され、同年一〇月二〇日、職員組合は第一回組合大会を開催し、給与等諸要求についての決議をし、この決議に基づき被告銀行に対し、同月二四日、御願と題する書面を提出したが、その書面には定年延長について次のような記載がある。

「四 停年ニ関スル御願

① 停年ヲ三ケ年延長シ満五十八才トシテ戴クコト

② 又停年ニ達シタ場合ノ措置ニ付テハ打合セテ

(イ) 引続キ在職セシメルカ

(ロ) 退職セシメルカ

(ハ) 在職ノ場合ノ待遇等ヲ決メテ戴クコト

③ 現在既ニ満五十八才ニ達シ居ル者ニ対シテモ前項ノ措置ヲ採ッテ戴クコト」

そして、職員組合の右御願について、組合長外と頭取、専務が昭和二一年一一月七日、同月一六日に会見し交渉した結果、被告銀行は、定年制の件については現状変更せずとの拒否回答をなした。

右拒否回答に対し、職員組合は、同年一一月一七日に組合委員会を開き、定年制の件については、次期大会まで結論を保留することとし、それまでの間は、各支店長に定年該当者につき進退に関する話が被告銀行よりあった際は本人並に所属店員の意向をも求めこれを基礎として回答することと決定した。

職員組合は、昭和二二日五月一八日に開催した第二回組合大会で、定年を三年延長して満五八歳とし、満五八歳達齢者を在職させるか退職させるかは組合と協議すること、現在既に満五八歳に達している者に対しては速かに高齢者より逐次右措置を取るべきことを再度決議し、高齢者を逐次退職させることについては、各人の経済事情を勘案の上で行うよう要請した。

この第二回組合大会に基づき、職員組合は同月二四日、被告銀行に対し「停年制ノ件当組合昨年ノ大会ノ決議ニヨリ停年ノ三ケ年延長及ビ停年ニ達シタ場合ノ措置ヲ組合ト打合セテ戴クコトヲ御願シテオキマシタガ未ダソノ実施ヲ見マセンノデ今回重ネテ之ヲオ願スルト共ニ高齢者ヨリ逐次停年制ヲ実施シテ戴キタイ」との御願を提出した。

職員組合の再度の要求に対し、被告銀行は、同年六月二七日、定年制の件については定年を規定の上で三年延長するということは今少し経済界の情勢を見きわめた上で決定することとし、それまでは従来通りで行きたいとし、定年に達した場合の処置を職員組合と打合せるということは将来なお考慮して見たいが差当りは今まで通り被告銀行に委せて置いてもらいたいとし、重要人事すべて常勤重役の合議制によって公正を期しているとする回答を行った。

この被告銀行からの回答を受けて、職員組合と被告銀行は、昭和二二年六月三〇日、再度協議を行った。この協議において、被告銀行は、現在五五歳定年はほとんど実行されず事実上延長されていると主張し、定年制については成文上は現行法規を変えず出来るだけ合理的に実行したいと回答し、今後の事情あるいは本人の能力、性質等により五五歳で定年退職を必要とすることもあり得ると行規上の五五歳定年制の実施をほのめかした。

しかし、職員組合は、このような被告銀行の巻き返しに対し、「五十五才ヲ厳守スルナラバ退職給与金制度デ少クトモ家族並ニ本人ノ生活ヲ保証シ得ル様改定スル事ガ附帯条件デナケレバナラヌ。停年ガ重役ノ意向ニヨリ伸縮出来ルノデハ行員ノ行務上ノ努力ヨリモ重役ニ迎合スル者ノミガ残ル如キ気風悪弊生ジ得ル故成文上合理的基準ノ誰ニモ判キリスル基準ガナケレバナラズ之ハ年令ヲ決メテ之ヲ厳守スルニシクハナイ。ソレ以上ノ例外ハ協議会デ組合ト交渉スレバ可」と強硬に繰返し主張し、反駁し、この協議の結果、被告銀行は職員組合の満五八歳までの定年延長の要求を入れて、実質的には組合の御願の線に沿って運営するから成文化することは見合すことで承知されたいと回答した。

この協議により、被告銀行は、行規上は満五五歳の定年を満五八歳と改定しないが、職員組合の要求を実質的に入れて、定年を満五八歳として運用することを承諾した。いわば職員組合は実質をとり、被告銀行は名目をとった形で実質満五八歳定年制が妥結されたのである。被告銀行が組合の定年延長要求を認めた背景には、行規上規定されている五五歳定年はほとんど実行されず事実上延長されているという実態があったからである。

(2) 昭和二二年四月七日に労働基準法が制定され、それに伴って、被告銀行は、昭和二三年一月一日実施の就業規則を制定した。

この就業規則は、「三、退職ニ関スル事項」として、「3、停年(満五五才)ニ達シ解職サレタルトキ」に、職員は退職すると規定しながら、「四、退職手当ニ関スル事項」では、「(六) 勤続年数ハ当該職員ノ当行入店ノ日ヨリ解職辞令ノ日迄トス」とし、昭和二二年四月一日以後「新ニ満五八才ニ達スル者ハ満五八才ニ達シタル翌日ヨリノ勤続年数ハ打切トス」と規定した。この規定は、満五五歳を定年としながら、被告銀行からの解職辞令を受けることで退職となるとし、満五五歳に達齢しても当然には退職とならず、満五五歳を超えても在職することが予定されている規定のしかたとなっている。しかも、退職手当では満五八歳までを退職金計算の勤続年限とすることなど、昭和二二年六月三〇日に、職員組合の定年延長要求を入れて、規定上の満五五歳定年は変えないが、実際の運営においては定年を満五八歳と取扱うとの定年制に関する職員組合との合意を反映した規定となっている。

このように、被告銀行では就業規則の規定上も、満五八歳定年制の運用に合わせた規定が作成され、その後も就業規則の改正があるが、文言上の表現は変化ししていても実質満五八歳定年制の運用実態やその運用を認める規定の体裁になんら変化はないのである。

(3) 職員組合は、昭和二四年一月一一日、被告銀行に対し退職金の大幅な増額要求を行ったが、従業員組合(第四銀行職員組合は昭和二四年八月第四銀行従業員組合と改称された。)は、同年八月三〇日、中央労働委員会に対し退職金の支給に関する調停の申請をし、同調停事件は同年九月二九日中央労働委員会から新潟県地方労働委員会(以下「地労委」という。)に移送された。この調停の過程で、被告銀行は、定年の取扱いが三年間延長され満五八歳となっていることを根拠に退職金増額要求を拒否するとの主張をした。すなわち同年一一月五日の地労委退職金調停委員会で、被告銀行は、当行の停年は昭和二二年組合の要求で三年延長して満五八歳としてあるのだから退職金は幾分割引して考へてよいのではないかと、昭和二二年の職員組合の要求で定年が満五八歳となっていることを理由に組合の要求額が高いと主張した。被告銀行の右主張に対し、従業員組合は停年を三年延長してあることと退職金とは全然関係ない五五歳から五八歳までの人は給料を退職金としてもらっているのではなく労働の報酬としてもらっているのであり、銀行は五五歳から五八歳までの人が労働能力がないにもかかわらず働かしてやっているのだと考へているわけではあるまいと痛烈に反駁を加え、退職金の問題と定年制の問題は全く無関係であることを強く主張した。

昭和二四年一二月一二日に、地労委は調停案を勧告した。この調停案についての地労委の調停委員会の説明に対し、被告銀行は、三十年勤続者を以て一生涯を銀行業務に捧げたものと見る事は当行で停年を五八歳まで延長してある建前からいってうなづけないと、ここでも五八歳に定年を延長していることを理由にあげて調停案に反論している。

地労委の調停案を受けて、従業員組合と被告銀行は、同年一二月二〇日、同月二一日、同月二二日の三日間にわたって経営協議会において協議を行ったが、被告銀行は、一二月二〇日の経営協議会において、組合の大幅な退職金増額要求を牽制するために、「 停年満五十五才を厳守し、五十八才迄事実上延長の取扱いを廃止する、但し、昭和二十五年一月一日満五十四才を超ゆる者の取扱いについては、昭和二十五年十二月末迄に逐次実施する事

前項但書に関する取扱いについては昭和二十五年一月一日満五十五才を超ゆる者は同日を以て同日以後満五十五才に達する者はその日を以て勤続年数を打切る。尚昭和二十五年一月一日満五十五才を超ゆる者には定期昇給を行はず」

との提案を突然出し、現在定年を五八歳迄延長しているが、この際暫定的な取極めであった五八歳停年はやめて五五歳を厳守したいとの意向を述べた。

被告銀行の右提案はこれまでの協議の中ではまったく出しておらず、終盤になって右協議会で初めて持ち出してきたものであった。これに対し、従業員組合は、銀行員は仕事の性質からいって、五十八歳まで充分能率を落さず働いてゆけると思うし、社会情勢から見て、我々の生活もまだ正常の状態に復帰していないと思う、銀行の経営がこれをやらねば困るというならまだしも、現在の経営状態ではこの必要性を認めないなどと強く反対し、退職金改定問題と定年制の問題を切り離して協議するよう強く要求し、定年制の問題は退職金改定問題とは一応切り離して進め、定年問題は日を改めて協議することとした。

その結果、同月二二日、従業員組合及び被告銀行ともに地労委の調停案を受諾し、同日退職金についての協定が成立した。

(4) 右協定成立の翌二三日、被告銀行は従業員組合に対し、次のような議題で経営協議会を開くよう申し入れた。

「一、退職金規程の勤続年数に関する件

退職金規程による勤続年数計算に関し昭和二五年一月一日において満五十五才を超えるものはその日をもって、その日以後満五十五才に達するものは満五十五才に達したる日をもって勤続年数の計算を打切るものとする。

二、停年規程に関する件

停年の取扱に関し現在満五十八迄停年退職の期限を延長しおるが昭和二五年一月一日(以下指定日という。)において満五十二才を超えるものは、指定日を起算日として、指定日より満五十八才に達する迄の期間の1/2に相当する期間の終了する日をもって停年退職せしめるものとし、指定日において満五十二才以下のものは満五十五才に達したる日をもって停年退職せしめるものとする。

即ち指定日より三ケ月後は全部停年満五十五才を実施することとなる。」

この被告銀行の申し入れは、定年の取扱に関し満五八歳まで退職期限を延長して運営している定年制を、三年後には規定どおり満五五歳として実施しようという提案であるが、退職金計算における勤続年数を満五五歳で打切ることを第一号議案としていることからもわかるように定年制問題は勤続年数打切りの牽制として持ち出されたものである。

昭和二四年一二月二五日、従業員組合は被告銀行提案について緊急委員会を開催し検討しており、その後、昭和二五年一月二四日に被告銀行の提案について、経営協議会がもたれたが、退職金規程の勤続年数に関する件も定年制に関する件も、いずれも被告銀行が自説を固持したため、協議がまとまらなかったが、その後も交渉がもたれ、地労委の斡旋もあって、昭和二五年三月三〇日、従業員組合と被告銀行との間で、協定が締結された。

右協定では、定年制に関する件(第二号議案)については、適当なる時期において更に被告銀行及び従業員組合双方が自主的に且つ友好的に協議するものとするとされ、退職金規程の勤続年数の打切りに関する件(第一号議案)は、被告銀行提案のとおり満五五歳を以て勤続年数の計算を打切ることとし、その代償として、停年制に関する現行制度の改正までの間の暫定的措置として満五五才に達したる日から退職する日までの期間について特別慰労金を支給することとされた。

この特別慰労金は、本件定年制実施の直前まで支給の定めがあり、本件定年制の実施に伴って廃止されたものである。

このように定年制に関する件については、適当なる時期において更に被告銀行及び従業員組合双方が自主的に且つ友好的に協議することになったが、このような重大なことを協議したことの記載は組合史にもなく、定年制に関する協議をしたとの痕跡を示すような資料はみあたらない。むしろ、右協定で定年制に関する労使の協議が整うまで実施されるとされていた特別慰労金の制度が本件定年制の実施される昭和五八年三月三一日まで続いていたことは、右協定によって確認された停年の取扱に関し満五十八歳まで停年退職の期限を延長しているという被告銀行の定年の運用が、そのまま三〇年以上にわたって実施されていたことを裏付けるものであるといえる。

(5) 被告銀行は、昭和二六年に行規を改編し、それに伴って就業規則を改正し、この改正就業規則は、同年八月一日から実施された。

この改正就業規則には、第三〇条に「職員は満五五歳に達したとき停年とし退職させるものとする。但し願出により引続き在職を必要と認める者は停年後も引続き勤務させることがある」との規定があり、定年後在職(以下「本件定年後在職制度」という。)を認める規定が置かれたが、第四三条では停年(満五五歳)に達し解職されたときに職員は退職するものと規定されており、昭和二三年から実施された就業規則と同じ規定になっている。また第四四条の退職手当の規定では、勤続年数は当該職員の入店の日から起算し満五五歳に達した日をもって打切るものとされている。この就業規則には、昭和二五年三月三〇日に締結された協定に規定された満五五歳を超えて在職する者に対する特別慰労金の支給の規定はないが、この点については行規に退職金規程として規定されていた。

この定年規定についての就業規則の改正について、従業員組合がなんら修正要求を出さなかったのは、現実に満五八歳定年制が実施され定着していたため、あえて就業規則で成文化を要求する必要がなかったこと、就業規則では満五五歳達齢後の在職を規定し、規定上は従前の規定となんらかわっていないこと、退職金についても、満五八歳まで在職を前提として、満五五歳以降は特別慰労金として支給されるので、なんら現状に変化をもたらすものではなかったからである。

被告銀行は、昭和三六年六月一日に就業規則を改正し、定年について、第五四条で「職員の停年は満五五歳とする。但し、願出により引続き在職を必要と認めた者については三年間を限度として、その停年を延長することがある。」と規定し、これまで、定年後在職期間についての定めがなかったのに対し、「三年間を限度」という期間を明確に定めた。これは、昭和二二年六月の合意以来、被告銀行における定年の取扱が就業規則の満五五歳定年制の規定にもかかわらず、運用としては満五八歳をもって定年の取扱をしていたことを就業規則上も明確にしたものである。また、昭和二六年改正になかった特別慰労金についての規定が就業規則に定められたこと(退職金規定第7条)は、昭和二五年三月三〇日の協定で定年制に関する労使の協議が整うまで暫定的なものとして新設された特別慰労金制度が被告銀行の就業規則の規定上も定着したことを示すものである。

さらに被告銀行は、昭和四〇年九月一〇日、定年に関する就業規則を改正し、第五九条に「職員の停年は満五五歳とする。但し、願出により引続き在職を必要と認めた者については三年間を限度として、停年後在職を命ずることがある。」と規定したが、この改正も規定の字句を変えただけで実質満五八歳定年制の運用を変えるものではなかった。

(二) 実質満五八歳定年制の運用実態

(1)  被告銀行の定年制の運用実態の調査結果をまとめたのが以下の表である。被告銀行の行員には、一般の銀行事務を担当する一般行員と車の運転や暖房の取付等の諸雑務に従事する庶務行員の区別があり、表(一)は原告が該当する男子一般行員についての調査結果であり、表(二)は男子庶務行員についての調査結果であり、表(三)は男子一般行員及び男子庶務行員の調査結果を合計して集計したものである。

なお、被告銀行では、結婚退職制や賃金、昇進・昇格、定年の取扱等について、女性差別があるために定年退職まで勤める女子行員が少ないうえ、女性差別によって定年後在職を認めない政策をとってきたため、女性については定年延長になっている人がいないので、調査の対象からはずした。

表(一) 男子行員定年退職者年齢及び退職理由調査集計表

(一般行員)

年度

(昭和)

定年退職

人口

内 55歳達齢時

退職

定年後在職制度適用者

58歳

退職

人員

中途退職人員

左の理由別内訳

人員

理由

57歳

56歳

55歳

自己

都合

病気

死亡

役員

就任

転職

その

不明

32

12

12

11

1

1

1

33

16

1

病気

15

15

34

23

23

20

2

1

3

3

35

9

1

病気

8

8

36

16

16

15

1

1

1

37

18

1

病気

17

17

38

11

11

11

39

23

2

病気1 自己1

21

16

3

1

1

5

2

3

40

20

20

16

3

1

4

3

1

41

14

1

病気

13

9

2

1

1

4

3

1

42

16

1

自己

15

11

1

1

2

4

3

1

43

12

2

病気1 自己1

10

7

2

1

3

1

1

1

44

10

1

病気

9

8

1

1

1

45

12

12

10

1

1

2

2

46

13

2

自己1 不明1

11

9

2

2

2

47

9

9

7

1

1

2

1

1

48

15

2

転職

13

11

1

1

2

2

49

8

8

6

2

2

1

1

50

15

1

自己

14

10

1

1

2

4

3

1

51

7

7

6

1

1

1

52

9

9

7

1

1

2

2

53

13

1

自己

12

12

54

11

1

自己

10

8

1

1

2

1

1

55

15

1

自己

14

11

3

3

3

56

20

1

自己

19

11

7

1

8

8

57

19

1

転職

18

10

7

1

8

8

58

18

18

7

11

11

11

合計

384

20

364

289

51

13

11

75

3

1

8

42

5

100.0%

5.2%

94.8%

79.4%

14.0%

3.6%

3.6%

20.6%

◎計算式

イ)定年後在職制度の適用率

file_9.jpg364ロ)定年後在職者中に占める58歳退職者の割合

file_10.jpgハ)55歳達齢時退職者の総退職者中に占める割合

file_11.jpgMURA 20 _ 5 oy rine pee ~ Sea 7 5%表(二) 男子行員定年退職者年齢及び退職理由調査集計表

(庶務行員)

年度

(昭和)

定年退職

人員

内 55歳達齢時

退職

定年後在職制度適用者

58歳

退職

人員

中途退職人員

左の理由別内訳

人員

理由

57歳

56歳

55歳

自己

都合

病気

死亡

役員

就任

転職

その

不明

32

3

1

病気

2

2

33

7

7

5

1

1

2

2

34

3

3

3

35

4

4

4

36

5

5

5

37

38

3

3

3

39

2

2

2

40

7

7

7

41

1

1

1

1

1

42

4

1

病気

3

3

43

10

10

8

2

2

2

44

3

3

3

45

3

3

3

46

8

1

不明

7

6

1

1

1

47

3

3

3

48

7

1

不明

6

6

49

4

4

3

1

1

1

50

7

7

7

51

6

6

6

52

3

1

病気

2

2

53

4

4

4

54

5

5

5

55

5

5

5

56

6

6

6

57

8

2

不明

6

6

58

7

7

7

合計

128

7

121

114

6

1

1

7

100.0%

5.5%

94.5%

94.2%

5.0%

0.8%

5.8%

◎計算式

イ)定年後在職制度の適用率

file_12.jpgEE REN EM La BE Ez4ロ)定年後在職者中に占める58歳退職者の割合

file_13.jpgハ)55歳達齢時退職者の総退職者中に占める制合

file_14.jpg表(三) 男子行員定年退職者年齢及び退職理由調査集計表

(男子行員計)

年度

(昭和)

定年

退職

人員

内 55歳達齢時

退職

定年後在職制度適用者

58歳

退職

人員

中途退職人員

左の理由別内訳

人員

理由

57歳

56歳

55歳

自己

都合

病気

死亡

役員

就任

転職

その

不明

32

15

1

病気

14

13

1

1

1

33

23

1

病気

22

20

1

1

2

2

34

26

26

23

2

1

3

3

35

13

1

病気

12

12

36

21

21

20

1

1

1

37

18

1

病気

17

17

38

14

14

14

39

25

2

病気 1 自己 1

23

18

3

1

1

5

2

3

40

27

27

23

3

1

4

3

1

41

15

1

病気

14

9

2

2

1

5

4

1

42

20

2

病気 1 自己 1

18

14

1

1

2

4

3

1

43

22

2

病気 1 自己 1

20

15

2

2

1

5

2

1

1

1

44

13

1

病気

12

11

1

1

1

45

15

15

13

1

1

2

2

46

21

3

自己 1 不明 2

18

15

2

1

3

1

2

47

12

12

10

1

1

2

1

1

48

22

3

転職 2 不明 1

19

17

1

1

2

2

49

12

12

9

3

3

1

1

1

50

22

1

自己

21

17

1

1

2

4

3

1

51

13

13

12

1

1

1

52

12

1

病気

11

9

1

1

2

2

53

17

1

自己

16

16

54

16

1

自己

15

13

1

1

2

1

1

55

20

1

自己

19

16

3

3

3

56

26

1

自己

25

17

7

1

8

8

57

27

3

転職 1 不明 2

24

16

7

1

8

8

58

25

25

14

11

11

11

合計

512

27

485

403

51

19

12

82

3

24

8

42

5

100.0%

5.3%

94.7%

83.1%

10.5%

3.9%

2.5%

16.9%

◎計算式

イ)定年後在職制度の適用率

file_15.jpgepBm ae ~ S12 — 94.7%ロ)定年後在職者中に占める58歳退職者の割合

file_16.jpgハ)55歳達齢時退職者の総退職者中に占める割合

file_17.jpg55 mea EE 1 TR EER(2)  調査の結果

本件定年後在職制度の運用の実態を男子一般行員についてみると、昭和三二年度から昭和五八年度の二七年間に、満五五歳以上で退職した者は合計で三八四名である。そのうち、満五五歳で退職した者はわずか二〇名に過ぎず、三六四名の者が定年延長となり、満五五歳を超えて在職している。満五五歳達齢者に占める定年後在職者の比率は実に94.8%にも達する。圧倒的多数の者が定年延長となって在職しており、満五五歳で退職する者は極少数の者に過ぎず、しかも、満五五歳で退職した者は、病気や転職、自己都合によるものである。

男子庶務行員については、昭和三二年度から昭和五八年度までに、満五五歳以上で退職した者は一二八名で、うち満五五歳で退職した者は七名にしか過ぎない。退職理由も病気がほとんどである。残りの一二一名の圧倒的多数の庶務行員は定年後在職となっており、その比率は94.5%である。

男子一般行員及び男子庶務行員を合計して集計したのが、前掲の表(三)であるが、満五五歳以上の男子退職者は合計で五一二名で、そのうち、満五五歳で退職した者はわずか二七名、比率にして5.3%にしか過ぎない。残りの四八五名、比率にして94.7%の者が定年後在職となっている。満五五歳で退職した者の理由をみると、病気一一名、自己都合九名、転職三名、不明五名となっている。退職理由のはっきりしている者は自己の意思で在職を希望しなかった者であるから、本件定年後在職制度の適用率を考える場合、自己の意思で在職を希望しなかった者は除かなければならず、これらの者を除くと実に九九パーセントの者が定年後在職となっており、被告銀行においてはほとんどの男子行員は定年延長がなされ、満五五歳以降も在職している。

定年後在職の男子一般行員三六四名のうち、79.4%、二八九名が満五八歳で退職している。しかも、中途退職者七五名の退職理由をみると、転職が四二名と最も多く、つづいて病気・死亡一七名、役員就任八名、自己都合三名、不明五名となっている。理由の不明の者以外は自己の意思で中途退職をしている。

男子庶務行員では、定年後在職者一二一名のうち、満五八歳で退職した者は一一四名、94.2%である。中途退職者は七名、5.8%で、理由は病気・死亡による退職である。男子庶務行員は出向や役員就任等がないため、健康である限り満五八歳まで勤務し退職していることが一層明白になっている。

男子行員全員では、定年後在職者四八五名のうち、満五八歳で退職した者は四〇三名、83.1%である。中途退職者は八二名、16.9%であるが、退職理由は、転職四二名、病気・死亡二四名、役員就任八名、自己都合三名、不明五名であり、理由の不明の者以外は、すべて自己の意思によって退職している。

被告銀行の定年後在職者は自動的に三か年間定年が延長されているかどうかをみるためには、定年後在職者のうち、病気等の自己の意思で中途退職した者を除かなければならない。これら理由の明確な者を除くと満五八歳までの在職率は98.8パーセントとなり、ほとんど一〇〇パーセントに近い人が、死亡や自己の意思で退職しない限り、満五八歳まで勤務していたことになる。

(三) 組合員必携の記載

従業員組合は、昭和二八年頃から組合員必携を発行しているが、この組合員必携には、組合規約ばかりでなくこれまで組合と被告銀行との間で締結された労働協約、労使慣行、給料や退職金等の賃金に関する被告銀行の行規も掲載されているが、定年については次のとおりの記載がなされてきた。

「停年に関する協定は次の通りである。

1 職員が五五歳に達したときは、停年とし退職させるものとする。

2 但し引続き在職の必要を認める者に対しては、その停年を延長することができる。

3 停年延長の期間は三ケ年とする。

4 停年延長に関しては、第一項に拘らず次の理由に基づく申請により実質上運用されている。

イ 引続き仕事をなすに差支えない健康状態であること。

ロ 家庭の事情により勤務する必要のあること。

(註)上にみる通り停年に関しては宣言規定として五五歳。実質五八歳である。」

定年制に関する組合員必携の右のような記述は、少なくとも昭和三八年一〇月発行の組合員必携から本件定年制が導入されるまでの昭和五七年四月発行の組合員必携までの約二〇年間にわたって、掲載されてきていた。この組合員必携は被告銀行の店課長等の管理職にも配布されてきたものであり、経営協議会の代表メンバーには組合役員経験者がいるのであるから、当然被告銀行もその掲載の内容については十分承知しているにもかかわらず、これまで、被告銀行が従業員組合に対し、定年制に関する組合員必携の記述について訂正の申し入れをしたこともないし、従業員組合が訂正したこともない。特に、定年問題に関し、労使交渉が正念場になっていた昭和五七年四月に発行された組合員必携についても、被告銀行の人事部では組合員必携の定年制に関する記述を熟知しながらも、なんら訂正の申し入れをしていない。さらに、被告銀行の取締役の中には従業員組合の役員を歴任した者もおり、役員在職中に組合員必携の発行に関与した者もいる。例えば、本件定年制導入当時人事部長代理であった伊藤政幸は昭和五〇年八月から昭和五二年八月まで従業員組合の執行委員をしており、組合役員をしていた当時、組合員必携が発行されている。

したがって、組合必携の定年制に関する記述は、被告銀行における定年制の運用を正確に記載したものであるし、原告の定年退職者の実態調査とも合致している。

(四) 行報の人事消息欄の記載

被告銀行において実質満五八歳定年制の運用が行われてきたことは、被告銀行発行の社内報である行報の人事消息欄の記載からも裏付けることができる。行報では満五五歳に達齢して定年延長になった者は停年後在職と掲載され、定年後在職して満五八歳達齢により退職する場合には次のような記載がなされている。

行報発行年月日

記載例

昭和三一年六月

依願解職(満五八歳)

昭和三二年五月

退職(満五八歳)

昭和三七年一月

退職(満五八歳)

昭和三八年二月

退職(満五八歳)

昭和三九年四月

退職停年 五八歳

昭和四〇年二月

退職(停年五八歳)

昭和四三年一月

退職(停年五八歳)

このように、被告銀行は、定年退職年齢を満五八歳と考えており、そのような取扱を行っていた。

(五) 本件定年制をめぐる労使交渉における従業員組合の主張

従業員組合は、本件定年制をめぐる交渉において、被告銀行における本件定年後在職制度は実質満五八歳の定年制として運用されてきており、長年の労使慣行となっていることを主張している。

従業員組合が昭和五七年七月に出した高令化問題を考えようと題する書面の「定年延長の検討にあたって」との項には「私たちは現在定年制については、定年は五五才としつつも健康状態、家庭の事情などにより、その後三年間を限度として勤務することができる、実質定年五八才の定年後在職制度をもってきています。定年後もそれ以前と変わらない条件で三年間引続き勤務することができるこの制度は、定年後の生活確保の観点からも大きな支えとなっています。」との記載があり、従業員組合は本件定年後在職制度を実質定年五八歳の制度としている。

また、定年延長実現にむけてと題する書面には、定年後もそれ以前と変わらない条件で三年間引続き勤務することができる実質定年五八歳の本件定年後在職制度は、これまでながい歴史のなかで慣行として築きあげてきたすぐれたものである旨の記載があり、実質定年五八歳制が労使慣行となっていることを従業員組合は主張しているのである。

新定年制の交渉過程でも、従業員組合は被告銀行に対し、我々は、現行定年制について、定年は五五歳としつつも、これまで長い歴史的過程のなかで慣行として築きあげてきた実質定年五八歳の本件定年後在職制度をもってきているので、この制度を十分踏まえてほしい旨を主張している。このような従業員組合の主張に対し、被告銀行は、従業員組合の主張するような労使慣行があることを否定しないばかりか、本件定年後在職制度にも意を用いながら賃金水準等を決めていきたいと回答している。被告銀行は従業員組合の主張する実質満五八歳定年制であることを前提にして回答しているのである。

交渉の経過を報告した組合ニュースでも、従業員組合は被告銀行との交渉の場で、定年後在職制度が実質満五八歳定年制であり、慣行として築きあげてきたものであることを主張している。すなわち、昭和五八年二月一日の被告銀行の回答に対し、翌二日に団体交渉が開かれ、従業員組合は、我々は慣行として築きあげてきた本件定年後在職制度ももってきたことを踏まえれば、被告銀行の回答した賃金水準は納得できないと反論している。同月二六日の団体交渉でも、慣行として築きあげてきた本件定年後在職制度をふまえれば、年間賃金水準が五四歳時の六三%~六六%程度では不満であると主張している。この従業員組合の主張している本件定年後在職制度は、実質定年満五八歳を意味していることは明らかである。この従業員組合の主張に対し、被告銀行も本件定年後在職制度に意を用いながら検討すると回答しているのであり、被告銀行も定年の取扱が実質的に満五八歳となっていることを前提にして回答している。

以上のように、従業員組合も、本件定年制導入における交渉の際、実質満五八歳定年制である本件定年後在職制度が労使の慣行としてつくられてきたことを主張しているのであり、被告銀行もそれを認めて、交渉をしているのである。

5 実質満五八歳定年制における満五五歳達齢以後の労働条件

被告銀行における本件定年後在職制度は、実質満五八歳定年制の制度であるから、満五五歳達齢以後も在職する者の労働条件は、満五五歳達齢以前と全くかわらないものである。

(一) 定期昇給

本件定年後在職制度のもとでは、定期昇給については、満五五歳を超える者についても被告銀行の行規の規定に基づいて、標準以上の昇給が実施されてきた。

(二) 賞与

被告銀行においては、少なくとも昭和五四年以降は、賞与は、「(本俸+扶養親族手当+役付手当)×上期3.3か月(下期3.5か月)+資格別定額」という計算式で算出されて支給されてきている。そして、本件定年後在職制度のもとでは、満五五歳達齢後も右計算式で算出した金額が支給されてきた。

(三) 役付手当

これまでの被告銀行での運用実態では、本件定年後在職制度が再雇用制度ではなく定年の延長であったため、満五五歳達齢後においても従来どおりの役職についており、したがって、役付手当も減額されることはなかった。また、満五七歳という一定年齢達齢を理由に役職が変更されるということもなかった。定年後在職者については、長い歴史をもつ労使慣行によって、満五五歳達齢後も、特別な事情がない限り満五八歳まで、従前と同じ役職に就いて働くことができたのであり、満五八歳まで従前の役職で働くことは確固たる既得権として確立されている。したがって、満五七歳まで本部部長補佐の役職に就いた原告は、満五八歳まで本部部長補佐の職に就き役付手当の支給を受ける権利がある。

6 本件定年制の実施による原告の既得権の侵害

本件定年制の実施により、満五五歳達齢以後も満五五歳達齢以前と全く変わらない労働条件で満五八歳達齢まで勤務することができる本件定年後在職制度に基づき原告が有していた既得権が侵害されることとなった。

(一) 加算本俸の不支給

定例給与につき、従前の本俸が基本本俸と加算本俸とに区分され、満五五歳達齢日の翌月一日以降は加算本俸分の賃金は支給されなくなり、原告についての具体的な減少額は次のとおりである。

昭和五九年一二月から昭和六〇年三月

まで 毎月金五万八一〇〇円

昭和六〇年四月から昭和六一年三月まで

毎月金五万九八〇〇円

昭和六一年四月から昭和六二年三月まで

毎月金六万一二〇〇円

昭和六二年四月から

毎月金六万二四〇〇円

(二) 定期昇給の不実施

定期給与につき、従前は満五五歳以降も定期昇給が実施されていたが、本件定年制では実施されなくなり、原告は次のとおり賃金の減額をしいられた。

昭和六〇年四月から昭和六一年三月まで

毎月金二一〇〇円

昭和六一年四月から昭和六二年三月まで

毎月金四二〇〇円

(但し前年からの累計)

昭和六二年四月から 毎月金六三〇〇円

(但し前年からの累計)

(三) 賞与の減額

本件定年後在職制度のもとでは、満五五歳以降も「(本俸+扶養親族手当+役付手当)×6.8か月(夏3.3か月、冬3.5か月)+資格別定額」という算定方式で賞与が支給されていたが、本件定年制のもとでは、本俸から加算本俸分の賃金が削られたうえ、満五五歳以降は、「(基本本俸+扶養親族手当+役付手当)×三か月(夏1.5か月、冬1.5か月)十資格別定額」という算定方式で給与が支給されることになったため、原告の賞与は次のとおり減額された。

昭和五九年冬 金三二万三三一六円

昭和六〇年夏 金一〇〇万八一三六円

昭和六〇年冬 金一〇七万七三九〇円

昭和六一年夏 金一〇四万五一八六円

昭和六一年冬 金一一一万八一三九円

昭和六二年夏 金一一一万五五一六円

(四) 役付手当の減額

本件定年制のもとでは、満五七歳以後は、参事役等の新たな職位に基づく役付手当が支給されることになるが、従前の職位の役付手当に比べ大幅に減額されることになる。原告の場合は、満五七歳になったということで、昭和六一年一二月から本部部長補佐から業務役に役職を変更させられ、それにより役付手当は金九万一二〇〇円から五万円減らされ金四万一二〇〇円になった。

(五) 賃金等の総額の減少

賃金の総額について、本件定年後在職制度の適用がある場合と本件定年制による場合とを比較すると次のとおりになる。

本件定年後在職制度による原告の賃金は左の通りである。

満五五歳台 金八九二万四四二六円

満五六歳台 金九一九万一一二六円

満五七歳台 金一〇六〇万五〇八九円

合計 金二八七二万〇六四一円

これに対し、本件定年制による原告の賃金は次のとおりである。

満五五歳台 金六八六万五三七四円

満五六歳台 金六二九万七七五〇円

満五七歳台 金五六九万九二五一円

満五八歳台 金五六六万一〇五〇円

満五九歳台 金六〇八万七六四三円

合計 金三〇六一万一〇六八円

つまり、従前の実質満五八歳定年制である本件定年後在職制度によれば五五歳から五八歳の三年間で総額金二八七二万〇六四一円の賃金を得ることができ、本件定年制によると五五歳から六〇歳の五年間で総額三〇六一万一〇六八円の賃金となり、その差はわずか一八九万円余にすぎない。

また退職金について見ると、本件定年制により原告が満六〇歳となる昭和六四年一一月四日に受領する退職金は、金一二二九万九〇〇〇円となる。他方本件定年後在職制度によると、原告が満五八歳となる昭和六二年一一月四日に受領する退職金は金一二〇五万七三〇〇円となるが、これを昭和六四年一一月四日に受領し、商事法定利率年六パーセントの割合による利息相当金が付くとして計算すると、金一三五〇万四一七六円となる。

以上によれば、原告が満六〇歳に達齢する昭和六四年一一月四日に、本件定年制のもとで受け取る賃金、退職金の合計は金四二九一万〇〇六八円となり、これに対して本件定年後在職制度のもとで受け取る賃金、退職金の合計は金四二二二万六八一七円となり、本件定年制のもとで受け取る賃金、退職金の総額は、わずか六八万円余の増加になるにすぎない。これに定期給与や賞与の減額分についても退職金と同様に利息相当分を考慮すれば、両者はほぼ同一になる。

まさに本件定年制は三年間の賃金で五年間働かせるものであり、原告の既得権を侵害し、一方的に労働条件を変更するものである。

7 被告銀行の賃金は、当月の一日から月末までの分を当月の二〇日に支払うことになっており、原告が五五歳に達齢した昭和五九年一一月四日に該当する同月分の賃金は従来通りに支払われたが、同年一二月二〇日以降の賃金については、本件定年制のもとにおける従来より低額の賃金しか支払われていない。

被告銀行では、賞与は上期(支払日六月一九日頃)と下期(支払日一二月一〇日)に分けられているが、下期の支払は毎年七月一日から一二月末日までの期間について勤務日数で日割計算しており、原告に対して昭和五九年一二月一〇日に支払われた昭和五九年下期の賞与は、原告が同年一一月四日に五五歳に達齢したため定年後在職制度のもとにおけるよりも減額した額しか支払われておらずその後の賞与も本件定年制における減額した額しか支払われていない。

また、原告が満五八歳に達齢後満六〇歳を迎えるまでの期間は少なくとも本件定年後在職制度に基づく満五八歳達齢時の定例給与及び賞与の各支払を受けるべき労働契約上の地位があると解すべきところ、被告銀行はこれを争っている。

更に、原告が右制度の適用を主張して本訴を提起したため、被告は本件定年制に基づく右期間中の労働契約上の地位を争うおそれが十分にある。

なお、以上の点に関する具体的な賃金額は別紙債権目録に記載のとおりである。

8 よって、原告は、被告に対し、昭和五九年一二月一〇日以降昭和六二年一二月一〇日まで本件定年後在職制度のもとにおける賃金と本件定年制に基づく賃金との差額及びこれに対する各支払期日の翌日以降支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求めるとともに、主位的に原告が被告との間に、昭和六二年一二月一一日以降昭和六四年一二月一〇日まで、原告が本件定年後在職制度のもとで満五七歳台の時に取得する賃金と同額の賃金の支払を受けるべき労働契約上の地位を有することの確認を、予備的に原告が被告との間に、昭和六二年一二月一一日以降昭和六四年一二月一〇日まで本件定年制による賃金の支払を受けるべき労働契約上の地位を有することの確認を求める。

二  被告の本案前の主張

1  本案前の申立(一)について

将来の訴については民事訴訟法二二六条により予めその請求を為す必要のある場合に限ってその提起が許されるものであり、しかも請求の趣旨第1項は雇用契約に基づく賃金請求であるところ、民法六二四条に規定されているとおり雇用契約に基づく賃金請求権は労務提供後においてはじめて認められるものであり、しかも将来の昇給、賞与、就任不定の役職についての手当等の全く不確定な具体的な請求権として成立していないものを根拠にして請求がなされており、請求の趣旨第1項は、具体的請求権として確定していない金額を単に期限の到来のみを条件としているものであり、要件を欠く不適法なものであるから却下を免れない。

2  本案前の申立(二)について

請求の趣旨第2項の訴えは、いずれも将来の不確定な法律関係に関するものであって現在の法律関係ではなく、確認の訴えの対象は、現在の法律関係に限られ過去の法律関係または将来の法律関係の存否の確認は許されないのであるから、請求の趣旨第2項の訴えはいずれも確認の利益を欠くものであって却下されるべきものである。

三  請求の原因事実に対する認否

1(一)  請求の原因1(一)の事実は認める。ただし、原告は昭和六〇年二月一〇日付で営業推進部部長補佐となっている。

(二)  請求の原因1(二)の事実は認める。

(三)  請求の原因1(三)の事実は認める。

2  請求の原因2の事実は認める。

3  請求の原因3の事実は争う。

4(一)(1) 請求原因4(一)(1)の事実中、

職員組合が昭和二一年一〇月二四日に被告銀行頭取あてに御願と題する書面を提出したこと、その御願と題する書面に原告主張の事項が記載されていたこと、右御願に対し被告銀行がこれに応じなかったこと、昭和二二年五月一八日第二回組合大会が開かれ原告主張の決議がなされたこと、同月二四日職員組合から被告銀行に再度御願と題する書面が提出され、それには原告主張の事項が記載されていたこと、右御願に対し被告銀行が原告主張の趣旨の回答を行ったこと(ただし右回答を行ったのは昭和二二年六月二七ではなく、同月三〇日である。)は認め、その余の事実及び主張は否認ないし争う。

(2) 請求の原因4(一)(2)の事実のうち、被告銀行が昭和二三年一月一日実施の就業規則を制定したこと、その就業規則には、「三、退職ニ関スル事項」として「3、停年(満五五才)ニ達し解職サレタルトキ」に職員は退職する旨の規定及び「四、退職手当ニ関スル事項」では、「(六)勤続年数ハ当該職員ノ当行入店ノ日ヨリ解職辞令ノ日迄トス」とし、昭和二二年四月一日以後「新ニ満五八才ニ達する者ハ満五八才ニ達シタル翌日ヨリノ勤続年数ハ打切トス」とする規定があったことは認め、その余の事実及び主張は否認ないし争う。

(3) 請求の原因4(一)(3)の事実のうち、職員組合が昭和二四年に退職金改訂の要求を提出したこと、退職金の支給に関する調停事件が地労委に係属したこと、同年一二月一二日地労委から調停案が提示され、同月二二日、従業員組合及び被告銀行ともにこれを受諾し、同日退職金支給に関する協定を締結したことは認め、その余の事実及び主張は否認ないし争う。

(4) 請求の原因4(一)(4)の事実のうち、被告銀行が昭和二四年一二月二三日従業員組合に対し「退職金規定の勤続年数に関する件」と「停年規定に関する件」とについての協議を申し入れたこと、右の協議申し入れの内容が原告主張のようなものであったこと、被告銀行と従業員組合は右の二つの事項について協議し、地労委の事実上の斡旋を経て昭和二五年三月三〇日に被告銀行と従業員組合との間で協定が締結されたこと、右協定の内容がほぼ原告主張どおりであったことは認め、その余の事実及び主張は否認ないし争う。

(5) 請求の原因4(一)(5)の事実のうち、被告銀行が、昭和二六年八月一日、昭和三六年六月一日、昭和四〇年九月一〇日にそれぞれ就業規則の定年制に関する規定を変更したこと、変更されたそれぞれの規定の内容が原告主張のとおりであることは認め、その余の事実及び主張は否認ないし争う。

(二) 請求の原因4(二)(1)及び(2)の事実は争う。

(三) 請求の原因4(三)の事実のうち、昭和五七年四月発行の従業員組合の組合員必携に、原告主張の事項が記載されていることは認め、その余の事実は争う。

(四) 請求の原因4(四)の事実は争う。

(五) 請求の原因4(五)の事実は争う。

5  請求の原因5の冒頭の事実は否認する。

(一) 請求の原因5(一)の事実は否認する。

(二) 請求の原因5(二)の事実は否認する。

(三) 請求の原因5(三)の事実は否認する。

6  請求の原因6の冒頭の事実は否認する。

(一) 請求の原因6(一)の事実のうち、本件定年制の実施により本俸を基本本俸と加算本俸に分割したこと、満五五歳達齢月の翌月一日以降加算本俸は支給しないこと、原告について昭和五九年一二月一日以降加算本俸月五万八一〇〇円が支給されていないことは認め、その余の事実は否認する。

(二) 請求の原因6(二)の事実のうち、本件定年制のもとでは満五五歳以降は定期昇給が実施されなくなったことは認め、その余の事実は否認する。

(三) 請求の原因6(三)の事実のうち、本件定年制の実施により満五五歳以降の者については、年間定例給与の三か月程度を賞与として支給することとしたことは認め、その余の事実は否認する。

(四) 請求の原因6(四)の事実は否認する。

(五) 請求の原因6(五)の事実は否認する。

7  請求原因7の事実は否認する

四  抗弁及び被告銀行の主張

1  実質五八歳定年制の不成立

(一) 本件定年後在職制度の運用実態

(1) 定年後在職の手続

被告銀行は、満五五歳に達した従業員について、定年後在職を認める場合は、従業員から被告銀行に対し停年後在職願なる文書を提出させ、被告銀行において在職を必要とするか否かを審査し、在職を必要と認める者については、停年後在職発令通知書を交付して在職を認め、そうでない者については、従業員組合の組合員であっても、昭和二二年一一月一〇日に従業員組合との間に取り交わした労働協約書の附帯申合せに基づき、従業員組合の同意を得ることなく、満五五歳で退職させていた。

被告銀行の人事関係取扱要領第二八条によれば、「満五五歳の定年となり引続き在職を希望する場合には『なお健康上充分勤務に耐え得る見込にて、かつ家庭事情よりも引続き勤務を要するにつき在職御許可相成度』旨の願書に健康診断書及び部課店長の副申を添えて人事第一課経由頭取宛提出すること」と規定されていたので、被告銀行は、右要領に基づき、定年満五五歳に達した従業員につき、定年後在職を認める場合は、従業員から健康診断書及び部課店長の副申を添えて被告銀行に定年後在職願を提出させていたが原告自身も右取扱要領の存在及び手続を知悉していた。原告主張のように、実質満五八歳定年制であるならば、改めて健康診断書及び副申を添えて定年後在職願を提出するなどという手続を経るまでもなく、当然に定年後在職が認められることになると思われるが、満五五歳の定年に達した従業員が定年後在職を求める場合に、前記書類を被告銀行宛に提出しなければならないことになっていたということは、原告のいわゆる実質満五八歳定年制が存在しなかったことを示すものである。

つぎに、本件定年制実施まで行われていた就業規則の定年後在職の規定である「願出により引続き在職を必要と認めた者については三年間を限度として、停年後在職を命ずることがある」の主語は、いうまでもなく被告銀行である。被告銀行は、満五五歳に達した従業員が本件定年後在職制度の適用を求めた場合、当然にこれを承認するわけではなく、被告銀行の業容拡大に見合う人員確保の必要性の有無、被告銀行の人員構成上管理職ポストに該当する年齢層を確保する必要性の有無、景気の動向及び銀行業務の将来等の業務上の必要性の有無をはじめとし、健康診断書等により当該従業員が健康上充分勤務に耐え得る見込みがあること、副申・勤務成績等の人事考課及び職務経歴等により被告銀行が必要とする職務遂行能力があることのほか、従業員が毎年被告銀行に提出する従業員申告書や普段の面接により把握できる扶養家族の有無、家族の収入の有無及び住宅資金等の借入金の有無等の家庭の事情により引き続き勤務する必要があることなどを総合的に判断したうえ、定年後の在職を認めるかどうかを決定しており、その決定は、あくまでも被告銀行の裁量に属し、従業員らが被告銀行に対し当然に満五八歳まで勤務することができる権利を有していたものではない。

被告銀行は、満五五歳に達した従業員について、定年後在職を認める場合、在職の期間を定年後在職の期間の限度である三年間とすることなく、原則として「当分の間」とし、場合により、「停年後壱年間に限り」または「向後一ヶ年間」などの期限を付して定年後在職を認めていた。

原告主張のように、実質満五八歳定年制であるならば、被告銀行が一年間に限り在職を認めるという取扱いをすることができないことはもちろんであり、このように、被告銀行において三年未満の期限を付して定年後在職を認めることができたということは、被告銀行に定年後在職を認めるか否かの裁量権とともに、定年後在職の期間についても裁量権があったことの証左にほかならない。また、定年後在職を認められた者も、当然に満五八歳まで勤務できるとの認識を持っていなかったので、被告銀行から出向先への転職の勧奨を受けるなどして、満五八歳に達する前に退職した者も相当数いた。

被告銀行は、右裁量に基づき、被告銀行が在職を必要と認めた従業員について、停年後在職発令通知書という文書を交付して定年後在職を認めていた。原告主張のように、実質満五八歳定年制であるならば、定年後在職を認められた者について、改めて停年後在職発令通知書を交付する必要はないと思われるが、定年の満五五歳に達した従業員について定年後在職を認める場合に、改めて停年後在職発令通知書を交付する手続きを必要としていたということは、満五五歳の定年に達した従業員が当然にその後も引き続き被告銀行に勤務することができたものではないことを示すものであって、この点からも原告の主張は誤りであるといわなければならない。

満五五歳に達した従業員につき、被告銀行が定年後在職を認める場合は、従業員から被告銀行に対し停年後在職願を所属長の副申を添えて提出させ、被告銀行において在職を必要とするか否かを審査し、在職を必要と認める者については、停年後在職発令通知書を交付して在職を認め、そうでない者については、満五五歳で退職させる規定となっていたことは、右のとおりであるが、その手続の実際は次のようになされていた。

すなわち、定年後在職を希望する満五五歳達齢直前の従業員は、被告銀行に対し所属長を通じ口頭による事前打診をし、これに対し、被告銀行も定年後の在職を認めるか否かの事前審査をしたうえ、その結果を所属長を通じて当該従業員に内示し、定年後在職を認められる従業員だけが停年後在職願を提出し、右従業員についてだけ所属長が副申を作成するということになっていた。これは、定年後在職を希望する従業員が停年後在職願という公式文書を提出し、これを拒否された場合の当該従業員の心理的負担、名誉などを考慮した取扱いであった。従って、満五五歳達齢者のうち、事前審査により定年後在職を認められない者は、旧就業規則第五九条ただし書の定年後在職の願出のための停年後在職願なる文書を提出できないこととなっていた。

(2) 定年後在職者の割合

定年後在職を認めるか否かは、被告銀行における義務上の必要性の有無をはじめとし、当該従業員が健康上充分勤務に耐え得る見込みがあり、しかも家庭の事情により引き続き勤務する必要があることのほか、被告銀行が必要とする職務遂行能力があることなどを総合的に判断したうえ決定していたのであるから、満五五歳達齢者の人数と管理職ポスト数との関係、被告銀行の業績並びに一般的な景気の動向その他により定年後在職の運用に変化が生ずるのは当然のことである。昭和五〇年から本件定年制の就業規則の変更がなされた昭和五八年の前年である昭和五七年までの間における満五五歳達齢者及び定年後在職者の各人数、定年後在職者の勤務年数並びに五八歳未満で退職した者の退職理由は、表(一)及び(二)記載のとおりである。

表(一)

年度

五〇年

五一年

五二年

五三年

五四年

五五年

五六年

五七年

五五歳達齢者

二一

事務男子

〃女子

庶務

一七

事務男子

〃女子

庶務

二二

事務男子

〃女子

庶務

二三

事務男子

〃女子

庶務

二五

事務男子

〃女子

庶務

三二

事務男子

〃女子

庶務

三三

事務男子

〃女子

庶務

三三

事務男子

〃女子

庶務

一六

一四

一五

一八

一六

一八

一一

二二

定年後在職者

一九

一五

一四

一九

一四

二〇

一四

二三

一七

二二

一五

二八

一七

一一

二七

二二

定年後在職者の退職年齢

五五|五六歳

五六|五七歳

一一

一一

五七|五八歳未満

満五八歳

一五

一一

一二

一三

一二

一三

一二

一六

一一

一〇

(注)庶務行員には女子行員はいない。

表(二)

退職理由

自己都合

病気

死亡

銀行斡旋による転職

在職条件の期間満了

五五~五六歳

一名

一名

三名

一名

五六~五七歳

三七名

五七~五八歳未満

一名

二五名

一名

一名

一名

六五名

一名

表(一)によれば、昭和五〇年ないし昭和五七年度までの満五五歳達齢者二〇六人のうち、定年後在職を認められた者は一七二人で、その比率は83.5パーセントであり、右定年後在職者のうち、満五八歳まで在職した者は一〇三名で、その比率は50.0パーセントであり、また満五五歳達齢者全員に対する満五八歳で退職した者の比率は次のとおりである。

昭和五〇年度の満五五歳達齢者

71.4パーセント

昭和五一年度   〃

70.6パーセント

昭和五二年度   〃

59.1パーセント

昭和五三年度   〃

52.2パーセント

和年五四年度   〃

52.0パーセント

昭和五五年度   〃

37.5パーセント

昭和五六年度   〃

48.5パーセント

昭和五七年度   〃

30.3パーセント

以上のとおり、昭和五二年度以降は満五五歳達齢者のうち、満五八歳まで在職できた者は二人に一人、特に昭和五七年度にあっては三人に一人の割合となっており、満五五歳達齢者のすべてが定年後在職を認められたものではなく、また定年後在職を認められた者もすべてが満五八歳まで在職できたわけでもなかったから、原告主張のような実質満五八歳定年制が実施されていたといえないことは明らかである。

原告は、満五五歳達齢者、定年後在職者の各人数及びその比率を計算するにあたり、女子従業員を除外しているけれども、就業規則及び人事関係取扱要領などに女子従業員を除外するとの定めはなく、従って女子従業員も定年後在職の対象となるものであり、原告においても、女子従業員が定年後在職の対象となり得るものと考え、そのように行動していたのであるから、右比率の計算をするにあたり、女子従業員を除外すべきでないことはいうまでもない。また、家庭の事情により引き続き勤務する必要があることが定年後在職を認められる要件の一つとなっていたが、女子従業員については、その配偶者に収入があり、また、満五五歳以降年金が支給されるなど、家庭の事情により勤務する必要性を欠いたことから、定年後在職を希望する従業員はほとんどなく、また希望しても右要件を欠くものとして定年後在職を認められなかったものである。従って原告主張のように、被告銀行が定年後在職を認めるか否かを審査するにあたり、男女差別をしていたということもない。

(3) 定年後在職制度についての原告及び従業員の認識

諸橋カヲル及び勝見美代子は昭和五六年に満五五歳の定年を迎えるにあたり、所属長に相談して定年後在職を認められないとの回答を得た後原告に対し相談をし、原告が、被告銀行に対し両名の定年後在職について事前打診をしたところ、結局被告銀行の審査により両名について定年後在職が認められなかったので、両名は停年後在職願を提出せず、定年により退職した。また、原告は、石田マサ子が昭和五七年一二月二四日に定年満五五歳に達する以前に同人から相談を受け、被告銀行に対し同人の定年後在職について事前打診をした結果、その当時本件定年延長が労使間で協議されていたことなどの関係もあって、同人については定年後在職を認められたので、石田マサ子は、被告銀行に停年後在職願を提出した。このように、原告においても、定年後在職を希望する満五五歳達齢直前の従業員は、所属長を通じて被告銀行に対し口頭による事前打診をし、これに対し、被告銀行も定年後の在職を認めるか否かを所属長を通じて当該従業員に内示し、定年後在職を認められる従業員だけが所属長の副申を添えて停年後在職願を提出するということになっていたことを知悉し、かつそのように行動していたものである。従って、原告は、事前打診により被告銀行が審査をなし、定年後在職を認めるか否かは被告銀行の裁量であることを認識していたものというべきである。

また、被告銀行の一般の従業員も定年は満五五歳であると認識していたのであり、原告及び一般の従業員の認識が原告主張のような実質満五八歳定年制というものではなかったことは明らかである。

(二) 従業員組合における組合員必携の記載について

従業員組合が被告銀行と協議することなく、一方的に作成発行する組合員必携の記載が当然に原告と被告銀行間の労働契約の内容となるものでないことは論をまたないところである。なお、原告主張のように、「組合員必携」が昭和二八年八月に初版されたとする証拠はない。また、「組合員必携」に記載されているような内容の労働協約は存在しない。本件定年後在職制度の運用の実態及び本件定年後在職制度についての原告及び従業員組合等の認識が原告主張のようなものではないことは、すでに述べたとおりである。なお、原告は、被告銀行が組合員必携の記載について、その内容の訂正又は取消しを求めなかったことから、被告銀行も組合員必携の記載内容を是認したかのごとき主張をするが従業員組合が一方的に作成発行する組合員必携の内容について、被告銀行が訂正又は取消しを求めなかったからといって、その記載内容を是認したことにならないことはいうまでもない。

(三) 本件定年制をめぐる労使交渉における従業員組合の主張

従業員組合は、本件定年制に関する労使交渉にあたり、「私たちは現在定年制については、定年は五五歳としつつも健康状態、家庭の事情などにより、その後三年間を限度として勤務することができる、実質定年五八歳の定年後在職制度をもってきています。定年後もそれ以前と変わらない条件で三年間引続き勤務することができるこの制度は、定年後の生活確保の観点からも大きな支えとなっています。しかしながら、この制度は老後の生活確保といった観点からの勤務延長形態であり、その運用あたって健康状態、家庭の事情など一定の基準が設けられていることも、やむをえない面があります。そうしたことから私たちは、高令化が進展していくなかにあって、だれでもが一定年令まで勤務できる定年そのものを延長していく必要があろうかと考えます。」との意見を表明しているように、定年はあくまでも満五五歳であり、定年後在職が存在するといっても、「その運用にあたって健康状態、家庭の事情など一定の基準が設けられて」おり、「だれでもが一定年令まで勤務できる」ものではないので、「だれでもが一定年令まで勤務できる定年そのものを延長していく必要があろう」と考えていた。また、従業員組合は、右労使交渉において、実質満五八歳定年制が存在したことを前提として、満五八歳達齢後の従業員の賃金その他の労働条件だけを問題にすべきであると主張したことはなく、定年が満五五歳であることを前提とし、満五五歳達齢後の従業員の賃金その他の労働条件を新たに設定するものとして、被告銀行と交渉していたのである。さらに、従業員組合が定年延長に関する労使交渉の妥結後に発表した「組合ニュースNo九二」において、「三月一八日(月)開催の中央委員会において『定年延長妥結の件』については、これまで職場支部で討議を重ねるなかで出された意見をふまえ、活発かつ真剣な討議が行なわれ、その中では“だれでもが継続して安心して働くことができ身分が保障される六〇歳定年制の実現の意義は極めて大きく今後ともより良い制度とすべくさらに改善に向けた取り組みを行なっていこう”とし、採決に入り可決・決定されました。」と記載されているように、従業員組合は、本件定年制により「だれでもが継続して安心して働くことができ身分が保障される」ようになったと、本件定年制の意義を評価している。

以上によれば、従業員組合は、本件定年制実施前は、誰でもが本件定年後在職制度の適用を受けられるとは考えていなかったことが明らかである。

2  不利益変更の不存在

(一) 本件定年制による労働条件の改善

本件定年制は、以下に述べるとおり本件定年後在職制度よりも有利な制度である。

本件定年制により無条件で誰でもが六〇歳までは勤務が認められることになったのは、労働者にとって大きな利益である。すなわち、仮に原告主張のとおり五五歳定年後、五八歳までの定年後在職が認められるとしても、これは原告主張においても明らかなとおり定年後在職が可能な程度の健康状態でなければならず、かつ家庭の事情により勤務する必要があるという条件が必要である。しかし本件定年制はこのような条件は不要であり、たとえば再入院をしその後自宅療養中である原告の妻についても六〇歳まで勤務が可能であり、この間被告銀行の休職制度、福利厚生諸制度の適用を受けられる本件定年制の方が有利なのである。しかも、被告銀行の本件定年後在職制度は被告銀行において、業務上の必要性と職務遂行能力等を勘案し、被告銀行の裁量で決定するものであり、このような不確実な本件定年後在職制度に比較すれば本件定年制が労働者にとって有利であることは明らかである。本件定年制を制度全体としてみれば、六〇歳定年延長による生涯労働条件は本件定年制前に比較し従業員にとって有利であり、歓迎されるべき制度なのである。

被告銀行は六〇歳定年制を実施する一方で、早い時期からの行員自身の選択による第二の人生を援助するために割増加算金の制度を設け、満五〇歳以上満五八歳以下で被告銀行を退職する場合には、本件定年制前に比較し、退職金を増額することした。たとえば、原告の場合を例にとると、従前であれば、五〇歳で自己都合退職した場合、退職金は四五八万九七〇〇円であったのが八八五万一〇〇〇円に、かつ勧奨に応じて他企業へ就職した場合は一五九三万一八〇〇円となり、また従前であれば五五歳定年退職時には一一七二万四四〇〇円の退職金であったのが、銀行斡旋であれば一七五八万六六〇〇円に、定年後在職を認められたものが仮に五八歳まで在職し退職する場合の退職金は一二〇五万七四〇〇円(特別慰労金三三万三〇〇〇円を含む)であったのが、自己都合退職で一二〇八万四一〇〇円に、銀行幹旋の場合には一三二九万二六〇〇円にそれぞれ増額されている。本件定年制実施時点において、原告は五三歳であったのであり、退職金についての割増加算金の制度の適用を受ける可能性は充分あったのであり、右の制度は原告にとっても有利なものだったのである。

本件定年制は、従前の定年年齢満五五歳を満六〇歳にするというものであり、これに伴い従前は満五五歳で打ち切られた以下のような諸制度も、満六〇歳定年制実施により、延長適用できることとなったが、被告銀行における福利厚生制度は他行に比較しても極めて進んだものであり、これらの諸制度が六〇歳まで利用しうるメリットは相当なものである。

災害補償制度の利用

被告銀行には行員が業務上災害、通勤災害を被った場合において、労働者災害補償保険法にもとづく保険給付に加え、業務上災害により休業中の給与・賞与につき、労働者災害補償保険法により支給される休業補償給付等により補償されない部分を補償する、業務上災害により行員が死亡した場合にその遺族に対し、平均給与二五〇日分と九五〇万円を限度として補償を行う等のいわゆる上積み補償のための災害補償規定があるが、本件定年制前においては、右災害補償規定も満五五歳をもって適用対象外となっていたところ、右規定も本件定年制により満六〇歳まで適用することとした。

家族年金制度の利用

被告銀行には、行員が在職中に死亡または傷病による廃疾のために退職し場合に、本人及びその家族に対し、年金を支給する家族年金規定があるが、これについても本件定年制実施により従来の満五五歳から満六〇歳までの五年間適用が延長されることになり、このため、たとえば、傷病による廃疾のために退職した行員については、子供がいない場合でも本人に月額五万円、その配偶者に月額二万円が支給されることになり、月額合計七万円×一二ケ月×五年間で合計し四二〇万円が、また、行員が在職中に死亡した場合で、子供がいない場合でも、その配偶者に月額五万円が支給され、本件定年制により月額五万円×一二ケ月×五年間で、合計三〇〇万円が支給されることとなった。

弔慰金、傷害見舞金制度の利用

被告銀行には、在職中の行員、定年退職後の行員が死亡または重大な傷害をうけた場合に弔慰金等を支給する一年定期団体保険による弔慰金・傷害見舞金制度があり、たとえば、主事二級(原告の場合)の場合、基礎額四七〇万円、加算額二二〇万円、合計六九〇万円について、退職時から満六〇歳までの間は八割、満六〇歳を越え満六五歳までの間は五割支給といった制度があったところ、本件定年制実施に関連し、満六〇歳までを一〇割支給と改め、さらに満六五歳を越えては支給されなかった弔慰金、傷害見舞金を、満六五歳を越え満七〇歳までの間は二割五分支給とするように改めた。その他、本件定年制実施により健康保険制度、私傷病休職時の生活保障、見舞金制度、財形貯蓄制度及び持ち株制度の被告銀行の補助、住宅資金貸出制度、入院補助金制度等々、被告銀行の定める福利厚生制度につき、満六〇歳まで適用されることとなった。

特別融資制度の新設

本件定年制実施にともない、被告銀行は満五五歳以上の世帯主である従業員に対し、貸付限度額を三〇〇万円とする特別融資制度を新設した。また五五歳以上の者については、住宅資金貸出の返済条件を変更することを認め、六〇歳までの返済負担を軽減する措置を講じた。これは、従業員組合からの要求に対し、被告銀行として五五歳定年直前の該当層の生活プランに対する配慮として新設したものである。

(二) 本件定年制実施後の原告の定例給与

原告の定例給与につき本件定年制実施前と実施後を比較すると次のとおりである。<編注・左表>

給与内訳

本俸(基本本俸)

(加算本俸)

align="center"資格手当

役付手当

扶養親族手当

合計

五八・三・三一

(本件定年制前)

(原告五三歳)

一九万六九七〇円

一三万九九〇〇円

七万九八〇〇円

八五〇〇円

四二万五一七〇円

五八・四・一

(本件定年制による加算改訂)

(原告五三歳)

一四万一九七〇円

五万五〇〇〇円

一四万一九〇〇円

七万九〇〇〇円

八五〇〇円

四二万六三七〇円

すなわち、被告銀行は、本件定年制実施につき、役付手当については八〇〇円の減額を行っているが、資格手当につき二〇〇〇円の増額をしており、原告の場合合計一二〇〇円の増額となっている。さらに、その後、次のとおりベース・アップ、定期昇給が施されている。<編注・左表>

給与内訳

本俸

(基本本俸)

(加算本俸)

資格手当

役付手当

扶養親族手当

合計

五八・四・一

(原告五三歳)

一四万六三七〇円

五万六五〇〇円

一四万七四〇〇円

八万一五〇〇円

八五〇〇円

四四万〇二七〇円

五九・四・一

(原告五四歳)

一五万〇六七〇円

五万八一〇〇円

一五万三一〇〇円

八万四五〇〇円

八五〇〇円

四五万四八七〇円

六〇・四・一

(原告五五歳)

一五万二八七〇円

――

一五万九三〇〇円

八万八〇〇〇円

八五〇〇円

四〇万八六七〇円

六一・四・一

(原告五六歳)

一五万四六七〇円

――

一六万四五〇〇円

九万一二〇〇円

八五〇〇円

四一万八八七〇円

すなわち、本件定年制実施前の原告の定例給与は四二万五一七〇円であったが、その後本件定年制の下でベース・アップ、定期昇給が実施され、昭和五八年、昭和五九年には本件定年制前の給与を上回る給与が支給されており、結局本件定年制により満五五歳達齢後の翌月である昭和五九年一二月以降は加算本俸五万八一〇〇円が不支給となったものの、右時点で本件定年制前の定例給与との差額は毎月二万八四〇〇円(四五万四八七〇円―五万八一〇〇円―四二万五一七〇円)であり、昭和六〇年四月以降は一万六五〇〇円(四〇万八六七〇円―四二万五一七〇円)にすぎないのである。

この点について、原告は満五五歳達齢直前の給与と達齢後の給与を比較すべきであると主張するが、原告の満五五歳達齢直前の給与は本件定年制が有効であることを前提としてベース・アップ、定期昇給が実施されたことによる賃金であり、原告おいて本件定年制が無効であると主張するのであれば、比較の対象となるのは本件定年制実施前の給与でなければならない。

3  就業規則変更の合理性

就業規則の変更による本件定年制の実施は、以下に述べる通り合理性を有するものである。

(一) 定年延長実現の社会的要請

わが国の人口は急速に高齢化しており、五五歳以上の高齢者は昭和五〇年一七八〇万人、昭和五五年二〇五〇万人、昭和六〇年二四二〇万人であり、これに伴い労働人口における高齢者(五五歳以上)人口は、昭和五五年の九五〇万人から昭和六〇年には一一二〇万人となり、これを全労働人口に占める割合でみると昭和五五年(一九八〇年)の15.3パーセントから、昭和六五年(一九九〇年)には20.2パーセント、昭和七五年(二〇〇〇年)には二四パーセントにもなる。

被告銀行における全行員の平均年齢も昭和四五年の30.2歳(男子行員みでは33.0歳)から昭和五〇年には30.9歳(同34.7歳)、昭和五五年には32.3歳(同三七歳)、昭和五八年には33.6歳(同38.1歳)という状況にあり、また四六歳以上の男子行員の全男子行員に占める年齢構成比率でみても、昭和五五年には21.5パーセント、昭和五七年には26.6パーセント、昭和六〇年には三〇パーセント、さらに昭和六五年には四〇パーセント強が見込まれるなど、急速な高齢化現象がみられる。

このように我が国は、急速にいわゆる高齢化社会に突入しているのであり、平均寿命の伸長する状況の中で六〇歳定年が国家的要請として叫ばれ、かつ、国民の大多数も定年延長を望んでいる状況にある。

さらに、労働者にとってみれば定年延長は切実な要求である。我が国の定年後再就職の道は厳しく、しかも、我が国の年功序列型賃金体系の下では、定年退職後、仮に労働者が他の企業で職を得られたとしても大幅な賃金の低下等その労働条件が極めて悪化するのが通例であり、五五歳以上の転職者の場合は実に二三%の者が三〇%以上の賃金ダウンとなっており、一〇%以上の賃金ダウンの者を含めれば四七%の者が転職により賃金ダウンとなっているからである。

しかも、その経験・能力を生かして第二の職場を得ること自体困難であり、昭和五七年一〇月の新潟県内における年齢別求人倍率は次表のとおりであり、いかに高齢者の再就職が困難であるのか一目瞭然であり、高年齢労働者が従前勤務していた各企業において、たとえ労働条件の低下があったとしても雇用を継続すること、すなわち定年を延長することが社会的に強く要請されているのである。

年齢区分

四〇~四四歳

四五~四九歳

五〇~五四歳

五五~五九歳

男子

一.一七

〇.八〇

〇.四七

〇.一三

女子

〇.八七

〇.三五

〇.一四

〇.〇五

男女計

一.〇〇

〇.五二

〇.二七

〇.一〇

このような高齢化社会へ対応するため昭和五一年一〇月一日には中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法が改正され、常用労働者の六%の高年齢者(五五歳以上)を雇用することが努力義務と定められ、昭和五二年四月には衆議院社会労働委員会において定年延長の促進に関する件が決議され、同年五月には参議院社会労働委員会においても同様の決議がなされ、同年五月二三日、同月二四日には衆議院、参議院のそれぞれ本会議において雇用の安定に関する決議が行なわれ政府に対し定年延長の要請がなされているのである。

そして、昭和五四年七月二〇日には労働組合の全国的な政策検討の組織である政策推進労組会議が定年延長推進のための総合的な取組み強化を合意、この中で「①定年延長は六〇歳制度の要求を原則。②定年延長にともなう現行の賃金、退職金など労働条件の扱いは社会水準の確保を前提とし、定年制六〇歳を優先させることで対応。③定期昇給を含む年功的な賃金制度の改訂は、中高年層の標準的生計費の確保しうることを最低基準とし、労働の態様に見合った仕事給体系への転換を前提として容認する。④定年延長に伴う退職金の扱いについては弾力的に対応する。」等を決定したのである。

以上のように、定年延長は社会的要請でありたとえそれが労働条件の低下につながるとしても、なお定年延長が労働側に与えるプラスの方が大きいのであり、賃金水準にしても、勤務先が変わった者の方が、はるかに低く、定年延長のメリットはそう小さなものではないのであり、雇用問題は実は中高年問題であり、中高年対策の一環として定年延長の必要さは改めて論じるまでもないのである。

このような社会的要請の中、被告銀行に対し昭和五六年一〇月には新潟県知事より定年延長並びに高年齢者の雇用率六%達成についての書面による要請が、昭和五七年三月には労働大臣より六〇歳定年延長の早期実施要請とその取り組みについての考え方を回答するよう要請があったが、このような労働大臣自らの要請は異例であり、これらの行政指導はかなり強力に行われ、「賃金コストが負担になってできない、という企業には、高年齢者の定昇やベアの一部カットなどに関する方策を示し、問題点の解消を図っていく。また職安の指導でも解決できないときは、県の労働部長らが出向き説得、いわば労働行政の総力をあげて延長に取り組む。」というものであり、これは我が国が高年齢化社会を迎えるにあたり中高年齢者の雇用を確保するために、なんとしても六〇歳定年を実現することが至上命令であることをあらわすものである。

(二) 定年延長実現への従業員組合の要求

行員の平均年齢が他行に比較し高い被告銀行では、被告銀行の行員によって構成されている従業員組合も定年延長に強い関心を示し、昭和五五年一二月に独自に高齢化問題専門委員会を設置、「今日までの主流であった五五歳定年制は、そもそもわが国の平均寿命が四〇歳台で、子女の就業年齢も今よりはるかに早く、また伝統的な家族制度のもとで家長の早期引退が可能であった戦前の社会的土台の上に一般化したものです。ところが現在は、平均寿命が七〇歳を超え、また高学歴化の進展により子女の就業年齢も遅くなり、さらに核家族化の進行により高齢者だけの世帯数も大幅に増加するなど、戦前に比べ社会的条件は大きく変わってきています。こうした問題がこれまで大きな社会問題とならずにきたのは高度経済成長の中で定年退職者数も少なくかつ人手不足の状態であったため、高齢者の再就職も比較的容易であったことなどによるものです。しかしながら低成長経済への移行、労働力人口の高齢化、若年労働力の減少などに見られる諸情勢の変化した現在では、五五歳定年制は次第に社会的基盤を失いつつあるといえます。」という認識のもと昭和五七年七月まで実に一四回にわたり、高齢化問題専門委員会を開催し、定年延長問題に取り組んできた。

このような経過をたどり、同年一〇月二八日には従業員組合より被告銀行に対し六〇歳までの定年延長要求がなされるに至り、ここにおいて被告銀行としても六〇歳定年に向けて具体的検討を行わざるをえなくなり、労使交渉を重ね、経営として最大限の譲歩をなし、従業員組合も「高齢者としての特別な対応でなく可能な限り一貫した処遇を指向することとしたことは評価できるものであり、生涯労働条件の確立にむけその意義は大きなものがある。」と評価し、本件定年制が実現したのである。

以上のとおり、本件定年制は、被告銀行の経営上の都合とか必要に基づくものではなく、社会的要請と被告銀行の行員を代表する従業員組合の要求に応えるために、企業負担の増大を覚悟の上実施したものであり、被告銀行従業員全体の労働条件の向上、福利厚生の増進の観点に立って実施されたものなのである。

(三) 厳しい経営環境による人件費負担の限界

被告銀行は、次の表のとおり、平均年齢及び一人当り人件費とも他の地方銀行を上回っており、定年延長は人件費増による経営圧迫と人事の停滞、ポスト不足によるモラル低下をもたらすことになる。

(平均年齢)

男子

女子

被告銀行

三九.〇歳

二七.五歳

地銀二〇行平均

三七.一歳

二四.四歳

(人件費)

被告銀行

地方銀行平均

一人当たり人件費

六八四万五〇〇〇円

(地銀全六四行中一位)

六一三万五〇〇〇円

(1) 定年延長による人件費増

従業員組合からの定年延長要求は昭和五七年一〇月二八日になされたが、その当初の要求内容は定年を満六〇歳とし、職務、処遇は「現行の体系を継続して考え、生きがい、働きがいのもてるものとする」、賃金及び退職金は「現行諸制度および体系を基本とする」というものであった。

しかし右従業員組合の要求をそのまま受け入れることは人件費の増加、高齢化に伴う人事の停滞、配置職場の問題、社会保険の負担、間接経費の増加、コストアップ等、銀行経営に与える影響は多大であり、かつ低成長経済、金融自由化の進展が予想される等の厳しい経営環境の下では被告銀行の経営基盤そのものを左右しかねないものであった。すなわち五五歳以降の将来の賃金についても、これを五五歳時の賃金水準に維持し、全く定期昇給、ベース・アップを行わないとして計算しても、その人件費は次表のように急激に増加することが予想されたのである。

年度

五五歳を超え六〇歳

以下の者の人数

上記の者の総人件費(円)

五七

七六

六億二四〇〇万

五八

九九

七億九三〇〇万

五九

一三一

一〇億四五〇〇万

六〇

一六三

一三億二一〇〇万

六一

二四二

一九億六五〇〇万

六二

三三八

二七億三二〇〇万

六三

三七七

三〇億九六〇〇万

六四

四一八

三四億九四〇〇万

六五

四三二

三六億五〇〇〇万

定年延長により一〇億あるいは二〇億という人件費増を負担しなければならない場合においては、被告銀行は毎年度のベース・アップを実施することも困難になり、経営に与える影響は極めて大である。

(2) ポスト不足による人事の停滞

被告銀行の行員の平均年齢が高いことは前述のとおりであるが、定年延長により、いわゆる管理職ポスト対象者の人員も急激に増加する。被告銀行における管理職ポストは、本件定年制実施当時四〇一であるところ定年後も職務処遇を定年前と同様とすれば管理職対応資格を持つ主事二級以上の者は昭和五九年には七五五人、昭和六五年には九三二人となり、企業内で昇進することが極めて困難となり特に高年齢者がポストを占めるときは若年齢者からの不満が続出することになり、モラルが低下し、企業活力にも影響が出てくるのである。

(3) 健全経営の必要性

被告銀行は、一〇〇億程度の経営利益をあげているが、被告銀行の経営規模等からみて一〇〇億円の経営利益は決して多額のものではなく、むしろ同業他行との比較でみれば、その経営状況は決して良好とはいえない。また、国民の大多数からの強い信頼の下に莫大な金額の預け入れを受けている銀行にとっては何よりも健全経営をなすことが要求されるのであり、万一にも信用不安を起こすことは、取付け騒ぎ等国民生活にはかり知れない悪影響を及ぼすことになるのであり、このような銀行業の公共的性格からすれば資本金その他の自己資金は預金者保護のための基礎であり、預金の増加は自己資本の充実を伴う必要があり準備金の繰入れ又は益金の内部留保を一層促進することが必要なのであり、利益が生じたからといって社外に利益を流失するわけにはいかないのである。しかも、一方で金融機関としての信頼を維持するため最低限一〇%の配当は行う必要があり、各銀行が一〇%以上の配当を維持している中で被告銀行のみが一〇%の配当を維持できなければ当然経営内容に不安を与え営業に支障が生じるのはもちろん、ひいては営業基盤そのものに不安を与えることになるのである。

このため銀行業界においては大蔵省銀行局通達において配当性向四〇%以内という基準が定められているが、仮に一〇〇億円の利益(税引前当期利益)が生じた場合、これから法人税等の税金を控除すれば税引後当期利益は三六億五〇〇〇万円(実効税率63.5%)となり、配向性向四〇%ということから配当しうる金額(配当金)は一四億六〇〇〇万円(63億5000万円×0.4)ということになる。しかるに他の地方銀行並みの配当率一〇%を維持するために必要な配当金は要配当資本金一五六億円の被告銀行においては一五億六〇〇〇万円であり、配当性向四〇%を維持すれば配当率は一〇%以下にならざるをえないのである。逆に税引前当期利益一〇〇億円(税引後当期利益は三六億五〇〇〇万円)、要配当資本金一五六億円で一〇%配当を実施すれば配当性向(一五億六〇〇〇万÷三六億五〇〇〇万)は45.2%となり、健全経営のために定められた基準を大きく上回ることになる。

しかし、このことは健全経営の確保の観点から適正な内部留保の充実が必要であるとの要請に反し、さらに利益の処分に当たって配当性向を著しい高水準に引き上げるようなことは、今後にありうべき一層厳しい経営現実に対する銀行の適応力を弱めることになるのである。現に増資前の昭和五九年度の配当性向は地方銀行の平均配当性向が25.15%の中で、被告銀行は31.67%にも及んでおり、他行に比較し経営に余裕がない状況に直面しているのである。そして、増資後の要配当資本金一五六億円の下で、他行並みの一〇%配当を維持し、かつ健全経営の観点から配当性向を四〇%以内に抑えるためには、一〇七億円の税引前当期利益が必要となるのである。

(4) 収益率の悪化

被告銀行の経営内容は厳しいものであり、被告銀行の総預金量の推移と当期利益の推移をみても明らかなとおり、昭和五一年の総預金量六九一五億円が昭和六一年に一兆八一七〇億円と約2.63倍(この間地方銀行二〇行平均は七七八九億から二兆一二七〇億と約2.73倍)に増加したにもかかわらず、当期利益は三九億一一〇〇万円から四四億五〇〇〇万円と約1.14倍(この間地方銀行二〇行平均は四三億四三〇〇万から五九億三九〇〇万と約1.37倍)にしかなっていないのであり、昭和五一年には総預金量の0.57%の当期利益率であったものが、昭和六一年には実に0.24%となっているのである。

このような利益率の減少を端的に示すものが預貸利鞘の縮少であり、逆鞘である。すなわち、金融機関の利益は預金金利と貸出金利の差によって生じるが、預金獲得には従業員の人件費、物件費等の経費がかかっており、これら経費を含めたものと融資によって得られる差が利益(利鞘)となる。しかるにこの利鞘は次のとおり減少の一途をたどっており、ついに昭和五九年にはマイナス0.11%、昭和六〇年にもマイナス0.12%、すなわち逆鞘となっているのである。

預貸利鞘

年度(昭和)

被告銀行

地方銀行平均

五一年

〇.六五

〇.六七

五二年

〇.三〇

〇.二八

五三年

〇.四一

〇.三八

五四年

〇.四八

〇.六一

五五年

〇.〇七

〇.三一

五六年

〇.〇四

〇.一〇

五七年

〇.三一

〇.三四

五八年

〇.一九

〇.二六

五九年

△〇.一一

〇.〇〇

六〇年

△〇.一二

△〇.〇二

要するに現在の利鞘減少さらには逆鞘の時代にあっては、利息の付かないコストのかからない資金を集めなければならないのであり、毎年毎年内部留保を積み立ててその資金を運用することで利益を生み出していかざるを得ない状況なのである。

(5) 金融自由化による競争の激化

我が国の経済は昭和四八年のオイルショック以降高度成長経済から低成長経済へと移行し、銀行の融資先である各企業の業績は低迷を余儀なくされ、高度成長期のような積極的な設備投資のための資金を必要としなくなったうえに、むしろ借入金の金利負担を軽減するために余裕資金は借入金の返済に充当するなど各企業の融資需要は停滞することとなった。さらに、たとえ借入する必要があっても、より低利な融資を探し求めることとなり、一方銀行の預金者側においては、より高い金利の商品を求める傾向が強くなっており、銀行は融資先と預金者の両方の要望に応えねばならない状況にあり、必然的に銀行の業績は伸び悩む結果となった。このため従来のように業績拡大により膨大な人件費増を吸収するといったことが困難な状況を迎えるに至ったのである。

このような銀行業界を取り巻く厳しい経営環境の中で昭和五六年には銀行法が改正され、昭和五七年四月一日より施行され、金融の自由化に一層拍車がかかり、各金融機関の競争が激化することとなったのである。銀行法改正の背景事情としては、第一に高度成長からの安定成長への移行という経済の構造変化であり、このような成長パターンの変化を背景として企業部門の融資需要は鈍化の傾向をみせており、また、企業の自己金融力の強化と相まって銀行離れの現象がみられてきていること、さらに郵便貯金の著増により金融機関の資金吸収への影響がみられる等金融機関をめぐる経営環境はきびしいものとなっており、金融機関にとり健全経営の確保を図るべきことが従来にまして強まっているということであり、第二に銀行業務の大衆化・多様化の進展により、個人の資産選択も収益性への選好を強め、また多様化方向を示してきていること、企業についても、余裕金の増加に伴い、これをできるだけ有利かつ流動性の高い形で運用しようとしている動きが強まっていること、さらに従来は資金の借り手としてはもっぱら企業部門が中心であったが、近年消費者ローン、住宅ローンの伸びにもみられるように、個人部門も重要な地位を占めるようになっており、銀行が一般国民と接触する度合いがきわめて高くなってきていることであり、このため金融機関についてはその公共性、社会性の発揮のために一層配慮すべき必要性が強まっていること、第三に国際化の問題であり、本邦及び外国銀行の相互乗り入れが進展してきており、従来の行政指導中心の行政運営を見直し、開かれた法制へと整備していく必要性があること等があげられているが、その考え方は自主的経営の促進ということであり個別の行政介入を緩和し、銀行の創意工夫と経営努力の発揮を促進することが、競争と能率の追及を通じ、金融組織全体として国民経済のために有効に機能することになるというものである。

要するに企業の銀行離れが進む一方、住宅ローン等融資面でも個人と銀行との結び付きが密接となり、かつ金融の国際化(昭和五七年度で外国銀行の日本国内支店は約一〇〇を超える。)が進む中で従来の過保護行政、護送船団的な行政指導を排し、金融の自由化を進め競争原理を導入することで企業体質を強化しようとするものである。

金融の自由化は金利の自由化をも含むものであり、将来預金金利の自由化ということが実現されれば「都銀九行、地銀三四行、相銀五四行が赤字転落?」といった分析もなされているのであり(被告銀行は地方銀行六四行中三七位であり、赤字転落銀行と分析されている。)、銀行も企業として赤字になる時代が、預金金利自由化とともにようやく始まるといわれているのである。

以上のように、被告銀行も資金量の伸び悩み、収益力の低下にみまわれているのであり、公共金融機関として健全経営の要求される被告銀行において、本件定年制の実施は人件費の急激な増加を意味し、厳しい経営のもとにおける企業存続の重大な支障となり、したがって、本件定年制の実施は決して被告銀行の望むところではないのであるが、前述の社会的要請及び被告銀行従業員組合の要求に応え、行員の福利厚生の実現のためにその実施に踏み切ったのである。

(四) 本件定年制による賃金水準の合理性

(1) 他行の賃金水準との比較

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これに対し被告銀行の五五歳以降の賃金水準は次のとおりであり、前記地方銀行の賃金水準の中で最も高い群馬銀行の五六歳までの店長級年収六四五万円(ただし五七歳以降は五六四万円)、次長級年収五六二万円(同四八六万円)、代理級年収四九〇万円(同四二六万円)をはるかに上回るのである。

被告銀行

店長級

(参事)

次長級

(主事一級)

代理級

(主事補一級)

五五歳 五六歳

七八四万五〇〇〇円

六七六万九〇〇〇円

五一八万三〇〇〇円

五七歳以降

六八八万八〇〇〇円

六〇一万五〇〇〇円

四九三万六〇〇〇円

この賃金水準は都市銀行の五五歳以降の年収と比較しても遜色ないものであり、銀行業界における賃金水準でみれば、トップクラスといえるのである。ちなみに、新潟県内の年齢段階別平均賃金(昭和五七年新潟県商工労働部「新潟県賃金労働時間等実態調査」)は次のとおりであり、これに比較すれば被告銀行の賃金水準は二倍以上であって、いかに高水準にあるか判明するのであり、社会実態からみても被告銀行の本件定年制における賃金水準は合理的である。

中小企業

大企業

四〇~四九歳

二〇万四三二八円

二七万七七九四円

五〇~五九歳

一八万九九二四円

二八万一八六二円

六〇歳以上

一五万六七六七円

一七万三七六六円

(2) 賃金体系見直しの必要性

定年延長の実現については、多くの障害があるが、その大きな障害の一つとして、年功賃金体系すなわち高年齢者の賃金体系の見直しが出来ていないことがあげられているのであり、我が国企業の年功賃金制度を維持しながら定年延長を行うときは、その人件費の負担増に企業は耐えられないのである。そこで、これらの点も含めて定年延長を実現するためには基本的には賃金体系の改善が必要である。すなわちわが国の個別賃金は基本的には、ライフ・サイクルに見合った生計費と労働に対する対価との二つの要素によって決定されているが(それは、賃金項目がこれらの二つの要素にそれぞれ対応するものに分割されているか、あるいは一つに総合されているかを問わない。)、その原則をより意識的に明確に賃金体系に反映させるとともに、そのなかで労働に見合う賃金部分、いわゆる職務・職能給のウエイトを漸次高めていくことが必要であり、その場合には、生計費に見合う賃金部分は生計費がピークに達した後は当然低下することになるし、一方労働の質に見合う賃金部分は、それぞれの個人差によって五五歳以降上昇する場合もあれば、逆に低下する場合もあることになる。さらには、現行賃金カーブのもつ定年延長の阻害要因としての性格をより緩和するために、四五歳あるいは五〇歳をピークとするカーブに修正すべきであるとする議論があり、生計費の理論的ピークが四五歳ないし五〇歳にあることからして、原則的には、そうすることが望ましいと判断されるのであり、これらの点を看過し五五歳あるいは五八歳以降も賃金水準を維持すべきであるとの主張には合理性はないのである。

したがって、定年延長には入社後から五五歳定年前までの賃金体系についても見直しが不可欠であり、定年前である四五歳あるいは五〇歳の賃金をピークとし、それ以降賃金を減少するといった賃金カーブの設定により、はじめて六〇歳定年までのなだらかな賃金カーブが実現しうるのである。しかし、定年延長によるこのような賃金水準の抜本的な見直しについては抵抗が強く慎重な検討が必要であるところ、被告銀行における労使交渉においても四五歳あるいは五〇歳の賃金をピークとしそれ以降の賃金を減少するというなだらかな賃金カーブということについても検討したらどうかということを従業員組合に提示したところ、それについては強い抵抗があったという経緯があり、六〇歳定年実現のためには、五五歳定年後の賃金水準についてのみ労使交渉をせざるをえず、また現実に五五歳定年後の賃金水準のみが労使交渉の対象となったのである。

ところで被告銀行における本件定年制に基づく年収から平均月収をみれば、次表のとおりであり、前述の新潟県内の年齢段階別平均賃金あるいは次表の我が国の一世帯当り年平均一ケ月の消費支出(総理府統計局昭和五七年)をはるかに超えるものである。

資格

参事

主事一級

主事二級

五五~五六歳

六五万円余

五六万円余

五二万円余

五七歳~

五七万円余

五〇万円余

四七万円余

一世帯当り年平均一ケ月間の消費支出

年齢区分(歳)

一ケ月消費支出合計(円)

四五~四九

二九万一四四八

五〇~五四

二九万九二七八

五五~五九

二七万九五五八

六〇~六四

二二万三〇七三

入社後からの一貫した賃金体系、生計費のピーク時、能力のピーク時に賃金ピークを一致させるといった賃金体系は、多分に五五歳定年者の生活を考慮するという面のあるところ、被告銀行の五五歳以降者の賃金水準は、定期昇給を含む年功的な賃金制度の改訂は、中高年層の標準的生計費を確保しうることを最低基準とし、労働の態様に見合った仕事給体系への転換を前提として容認するといった基準をはるかに上回るものであり、このことからみれば、賃金カーブをなだらかな曲線とする必要はなく、金融機関の賃金が高水準にあることから、旧定年以降について新たに賃金水準を設定するというやり方がほとんどで、なだらかな賃金カーブを設定するというやり方はなかったというのが定年延長実施の際の銀行業界一般の措置であり、被告銀行の本件定年制の賃金水準には合理性が認められる。

(五) 十分な労使交渉に基づく本件定年制の実施

被告銀行は、従業員組合の要求である六〇歳定年を実現するために、次のとおり誠実に労使交渉を重ね、被告銀行と従業員組合とは本件定年制に合意したものである。

昭和五七年一〇月二八日(経営協議会)

従業員組合より定年延長要求

〃 一二月 三日(経営懇談会)

被告銀行として検討する旨回答

〃 一二月 九日(  〃  )

管理監督者のポスト数からの限度について説明

〃 一二月一五日(  〃  )

賃金水準、退職金、福利厚生制度等につき協議・交渉

昭和五八年 一月一二月(経営協議会)

従業員組合より賃金水準につき、生活できる水準でなければならない等の要求及び被告銀行の基本的見解につき重ねて協議・交渉

〃  一月二二日(  〃  )

従業員組合より五五歳以降の役職、呼称につき区別することに反対の要求等が示される

〃  二月 一日(  〃  )

被告銀行より「定年延長要求に関する銀行回答ならびに、これに伴う人事諸制度の一部改定に関する銀行提案の件」として被告銀行案提示

〃  二月 二日(  〃  )

被告銀行提案につき協議・交渉

〃  二月二六日(  〃  )

従業員組合より賃金水準につき引き上げ要求、被告銀行の経営負担から限界ある旨回答

〃  三月 三日(  〃  )

従業員組合より賃金水準につき重ねて上積要求、被告銀行の経営負担から限界ある旨重ねて回答

〃  三月 五日(  〃  )

前同

〃  三月 八日(  〃  )

被告銀行より「定年延長要求に関する修正回答ならびにこれに伴う人事諸制度の一部改定に関する追加提案の件」として上積み修正回答

〃  三月 九日(  〃  )

従業員組合より修正回答に対し、さらに上積み要求、被告銀行は経営負担の限界を主張

〃  三月二九日(  〃  )

従業員組合より被告銀行の修正回答にて妥結する旨回答

〃  三月三〇日(  〃  )

妥結調印

右のような交渉経過の中で、従業員組合は被告銀行の回答を「誰でもが継続して安心して働くことができ身分が保障されることや、高齢者としての特別な対応でなく可能な限り一貫した処遇を指向することとしたことは評価できるものであり、生涯労働条件の確立にむけその意義は大きなものがあります。」と評価し、「定年延長実現にむけたこれまでの諸活動を振り返りながら制度内容全般について総合的に判断した場合、既存の労働条件を土台にしながら一定の前進改善をはかることができた。」とし、妥結に至ったのである。

さらに、従業員組合は、定年直前の該当層(五〇歳以上の行員四〇二名のうち組合員は二四〇人と59.7パーセントを占めている。)の声を組合主張として採り上げながら充分な職場討議を重ね労使交渉を行ってきたのであり、その結果が被告銀行の上積み回答となったのであり、また三〇〇万円の前記特別融資制度(五二歳以上の定年直近者については、特に年三パーセントという低い利率となっている。)及び前記の五五歳以上者の住宅資金貸出の返済条件の変更の措置を引き出すことになったのである。特に昭和五八年二月一日の被告銀行の回答の後は、従業員組合は、次のとおり、支部長会議、各級役員会議、職場討議を重ねている。

二月四日 支部長会議開催

二月一四日~二二日 職場討議(オルグ実施)

横浜、豊栄、三条東、三条北、湯沢、神田等々

組合執行委員一三名がそれぞれ各職場にオルグに出向き組合員の意見を集約

二月二六日 団交(経営協議会)

二月二六・二七日 各級役員会議開催

組合執行委員、各級役員約一〇〇名が、一泊二日で定年問題検討

三月二日 中央委員会開催

三月三日 団交(経営協議会)

三月五日 団交(  〃  )

三月八日 団交(  〃  )

上積み回答

三月九日 団交(  〃  )

三月一一日 支部長会議開催

三月一四日 中央委員会開催

三月一五~二四日 職場討議

三月二六日 中央委員会開催

「長期間にわたり組織討議を積み重ね、それらをふまえた主体的交渉のなかから、だれでもが継続して安心して働くことができる身分が保障される六〇歳定年の実現の意義は極めて大きなものがある」として定年延長要求妥結を決定。

従業員組合は、このように討議を重ねる中で、組合要求が一〇〇パーセント実現されたわけではないが、被告銀行の回答の内容で妥結することが労働条件の向上になるとの中高年齢層を含めた組合員全員の合意を形成し、組合の正式な機関決定を経て被告銀行と妥結するに至ったのであり、中高年齢層あるいは組合員の声は充分に反映されているのである。

(六) 本件定年制による労働条件の改善

右2(一)に記載のとおり

4  就業規則の変更について、従業員の過半数を組織する労働組合が団体交渉を行った結果、使用者と労働組合との間で合意が成立した場合には、就業規則の変更について裁判所の事後的審査が及びうるのは、その内容が強行法規違反または公序良俗違反の場合に限られると解すべきである。

本件においては、本件定年制の実施について従業員の過半数を組織する従業員組合と被告銀行との間に合意が成立したことは前述のとおりであり、本件定年制の内容が強行法規違反または公序良俗違反とならないことは明らかであるから、就業規則の変更による本件定年制の実施については裁判所の審査権は及ばないと解すべきである。

5  労働協約の非組合員への拡張適用

(一) 被告銀行と従業員組合とは昭和五八年三月三〇日、定年延長に関する協定書と題する次の内容の労働協約(以下「本件労働協約」という。)を締結した。

「株式会社第四銀行と第四銀行従業員組合は定年延長に関し左記の通り協定する。

第一条(延長形態)定年延長とする。

第二条(定年年齢)現行定年満五五歳を満六〇歳に延長する。

第三条(実施日)昭和五八年四月一日

第四条(実施方法)昭和五八年四月一日以降満五五歳に達する行員から定年年齢を満六〇歳に延長する。

第五条(対象者)全行員とする。

第六条(延長後の処遇)

(一) 身分、呼称変更しない。

(二) 資格従前の資格とする。

(三) 職位役職者については満五七歳以降、原則として新設する参事役、副参事役、業務役、副業務役につく。意欲、体力、能力があれば部店長等の職位にとどまり得る。

(四) 職務各人の経験、能力、適性等を勘案の上、配置する。

(五) 給与等

file_19.jpg定例給与 基本本俸、資格手当、扶養親族手当、役付手当を支給する。

イ 基本本俸 五五歳未満を含め、現行本俸を基本本俸、加算本俸に分割し、加算本俸は満五五歳達齢日の翌月一日以降支給しない。

ロ 資格手当 現行通り支給する。

ハ 扶養親族手当 現行通り支給する。

ニ 役付手当 新設する職位を含め現行役付手当を職位に対応した手当に改定し支給する。

file_20.jpgその他の手当 現行通り支給する。

file_21.jpg賞与 年間、定例給与の三か月程度を支給する。

file_22.jpg定期昇格 実施しない。

file_23.jpgベースアップ 実施する。

(六) 退職金 現行の五五歳定年時水準に五年間分の特別慰労金分を加算した額を満六〇歳定年時に支給する。なお、勤続一五年以上、満五〇歳以上の定年前の退職者に対する、割増加算金制度を新設する。

(七) 年金 現行水準を下回らないものとする。

(八) 福利厚生 原則として現行諸制度を継続適用する。

第七条(組合員資格)労働協約第三条で定める職位にあるもの、ならびに参事役、副参事役、業務役で、その任用直前まで同条で定める職位にあったものは非組合員とする。

第八条(管理監督者区分)新設する参事役、副参事役、業務役、副業務役は労働基準法第四一条第二号に該当する管理監督者の範囲にはそれぞれ含めない。

第九条(経過措置)

(一) 昭和五八年三月三一日迄に満五五歳に達し停年となる行員は、本人の願出があり、かつその後健康上勤務に耐えうるものと判断されれば、満五五歳以降三年間を限度として停年後在職出来るものとする。

(二) 昭和五八年三月三一日現在停年後在職中の行員は現行処遇のまま引続き停年後在職出来るものとする。但し、その期間は満五五歳以降三年間を限度とする。

(三) 昭和五八年三月三一日現在停年後在職中の行員に対しては現行の退職金規定を適用する。

(二) 本件労働協約締結当時、本件定年制の適用を受ける行員の総数は三五四五名であり、従業員組合にはその四分の三以上である三二〇五名が加入していたのであるから、労働組合法一七条により、本件労働協約の効力は非組合員である原告に対しても及ぶものである。

五  抗弁及び被告の主張事実に対する認否

1  抗弁及び被告の主張1(一)ないし(三)の事実は争う。

2  抗弁及び被告の主張2の事実は争う。

3  抗弁及び被告の主張3の冒頭の事実は争う。

就業規則の変更による本件定年制の実施にともなう原告の労働条件の不利益変更については合理性は認められない。

(一) 抗弁及び被告の主張3(一)の事実のうち、定年延長の実現が社会的要請であることは認め、その余の事実は知らない。

(二) 抗弁及び被告の主張3(二)の事実のうち、従業員組合が昭和五五年一二月に高齢化問題専門委員会を設置したこと、昭和五七年一〇月二八日に従業員組合から被告銀行に対し六〇歳までの定年延長要求がなされたことは認め、その余の事実は否認する。

(三) 抗弁及び被告の主張3(三)冒頭の事実のうち、定年延長が人件費増による経営圧迫と人事の停滞、ポスト不足によるモラル低下をもたらすことになることは否認し、その余の事実は知らない。

(1) 抗弁及び被告の主張3(三)(1)の事実は否認する。

(2) 抗弁及び被告の主張3(三)(2)の事実は否認する。

(3) 抗弁及び被告の主張3(三)(3)の事実は知らない。

(4) 抗弁及び被告の主張3(三)(4)の事実は知らない。

(5) 抗弁及び被告の主張3(三)(5)の事実は知らない。

(四)(1) 抗弁及び被告の主張3(四)(1)の事実のうち、被告銀行の本件定年制における五五歳以降の賃金水準が地方銀行他行の定年制における五五歳以降の賃金水準を上回るものであることは認め、その余の事実は否認する。

(2) 抗弁及び被告の主張3(四)(2)の事実は否認する。

(五) 抗弁及び被告の主張3(五)の事実は否認する。

4  抗弁及び被告の主張4の事実は争う。

5(一)  抗弁及び被告の主張5(一)の事実は認める。

(二)  抗弁及び被告の主張5(二)の事実は争う。

六  原告の反論

1  就業規則変更の合理性の不存在

(一) 人件費増の不存在

被告銀行の主張によれば、定年延長による人件費が増加する理由として、五五歳を超え、六〇歳以下の者の賃金について、賃金水準を五五歳時のものに維持し全く定期昇給、ベース・アップを行わないとして計算しても、その総人件費は、昭和五七年度の五五歳以上者が七六名で六億二四〇〇万円となり、昭和六一年度には五五歳以上者二四二名で一九億六五〇〇万円、昭和六五年には四三二名で三六億五〇〇〇万円に達することになる。しかし、原告が現実に在籍する五五歳以上者の人員調査をもとに試算したところによれば被告の試算とは大きな隔たりがある。すなわち、原告らの調査では、昭和五七年度の五五歳以上者は五七名であり、被告銀行の数字(七六名)を大幅に下回っている。支払賃金も被告銀行側で試算した金六億二四〇〇万円よりも一億八二〇〇万円少ない四億四二〇〇〇万円となっている。昭和六一年度の五五歳以上者は、原告らの調査では一四六名であり、被告銀行の数字(二四二名)よりも九六名少ない。支払賃金も被告銀行試算(一九億六六〇〇万円)より七億五一〇〇万円少ない一二億一五〇〇万円になっている。さらに原告らが以上の実態をもとに昭和六五年度の支払賃金を予測したところによれば、被告銀行の試算(三六億五〇〇〇万円)よりもはるかに少ない二二億六三〇〇万円である。ところで原告らの調査によっても、今後五五歳以上者の人件費が増加するのは必至であるが、ここで注意しなければならないのは、この人件費の増加は、本件定年制の実施にともなって生ずる増加であるとは限らないということである。なぜなら、五〇歳代の該当層がふくれあがっている現在の被告銀行の年齢構成からすれば、従前の定年後在職制を維持した場合でも五五歳以上者の人件費は必然的に増加するからである。

従って、本件定年制を実施した場合と従前の定年後在職制を維持した場合の人件費を比較しなければ、本件定年制を導入することによって生ずる人件費の増加を正しく把握できないことになる。そこで原告らは、本件定年後在職制度のもとでの人件費と本件定年制のもとでの人件費の比較を行ったところ、本件定年後在職制度を維持したほうがかえって人件費の増加を招来させ、逆に本件定年制を実施して五五歳以上者の人件費を大幅に切り下げることのほうが人件費の大幅な抑制がなされることが判明した。すなわち本件定年制を実施することにより、本件定年後在職制度を維持した場合に比較し、昭和五八年度で一億八六〇〇万円、昭和五九年度で二億四六〇〇万円、昭和六〇年度で二億六四〇〇万円、昭和六一年度で二億七五〇〇万円、昭和六二年度で一億二四〇〇万円もの人件費が抑制されるのである。さらに、被告銀行は、本件定年制を実施して五五歳以上者に対して五四歳時の六七%の賃金を支払い、三三%をカットしている。また新入行員の採用を押さえるなど行員数を減らしているため、本件定年後在職制度のもとで本来負担しなければならない総人件費を大幅に節約している。例えば被告銀行における昭和六〇年度の行員についてのベース・アップの一人当りの資金量である一万六六七〇円をもとにベース・アップにより増加を必要とする年間総支払賃金の資金量を計算すると、一〇億八〇〇〇万円となる。ところが、被告銀行が昭和六〇年度に実際に支出した総支払賃金量の増加額は六億六七〇〇万円である。つまり被告銀行は昭和六〇年度だけをみても、金四億二三〇〇万円の人件費を節約している。このように被告銀行が人件費を節約し得たのは、五五歳以上者に対する賃金の大幅カット、そして新入行員の採用の抑制と中途退職者の増加による人員削減によるものであり、結局のところ本件定年制の実施により被告銀行は、かえって人件費の節約を可能にしている。その一方で被告銀行は、五五歳以上者一人当り年間三〇万円の定年延長奨励金を受け取っている。本件定年制を実施することにより満五五歳以上者はさらに増えることになるから、右奨励金の支給もさらに増え、そのぶんだけ被告銀行の支出は減ることになる。

ちなみに被告銀行の人件費の推移を見ると、昭和五〇年度から昭和五七年度までは毎年一三億円以上の増加であったものが、昭和五八年度以降は八億円台以下の増加にとどまり、昭和六〇年度の増加は六億六千万円台にとどまっている。人件費の増加率も昭和五八年度以降は前年度の四%以下に減少し、昭和六〇年度は二%台に低下している。また被告銀行の職員数は、昭和五一年三月の三三〇一名から昭和六一年三月には三四三二名とこの一〇年間で一三二名しか増加しておらず、この間の全国の地方銀行二〇行平均の増加が二二三名であることからすれば、極めて少ない増加にとどまっている。しかも昭和五七年度の三五六六名をピークに、昭和五八年度以降から減少の一途をたどり、昭和六〇年度の行員数は三四三三名と、昭和五七年度に較べ一三三名も減っている。

六〇歳定年制の実現にあたっては、企業が一定の経済的負担を甘受することが不可避であり、企業が何ら犠牲を払うことなく専ら労働者に犠牲を転嫁して定年延長を遂行しようとすることは、六〇歳定年制の確立を希求する社会的要請に反するものである。そして被告銀行の本件定年制による人件費の切り下げは、まさに右社会的要請を裏切るものというべきである。

(二) 金融の自由化による競争の激化について

被告銀行の総預金量は、昭和五一年三月から昭和六一年三月までの間に、六九一五億円から一兆八一七〇億円と約2.6倍の伸びを示している。これはこの間の全国の地方銀行同規模二〇行の平均伸び率(2.7倍)や県内第二位の所得申告を誇る北越銀行の伸び率(約2.5倍)と比較しても特に遜色のない業容である。しかも昭和五二年三月以降いずれの時期においても新潟県の経済成長率を上回る増加率を示しており、順調な伸びを示していることが分かる。被告銀行の当期利益も、昭和五一年三月から昭和六一年三月までの間に、三九億円余から四四億円余とコンスタントな伸びを示しており、同じ期間の広義自己資本は、五一五億円から九三九億円と大幅な増加を示している。さらに被告銀行の昭和五五年度から昭和六〇年度までの経常利益は、全体として増加傾向にあり、昭和五五年度で七〇億円余であったのが、昭和五七年度には九七億円余に増加し、昭和五八年度以降は一〇〇億円を突破している。当期利益も昭和五五年度の三六億円余から昭和六〇年度は四四億円余に増加している。さらに自己資本は、昭和五五年度の七二四億円から昭和六〇年度は九三九億円に急増している。最近の円高不況の中にあっても被告銀行の業容は顕著な伸びを示しており、昭和六二年三月期決算で一二二億円余の経常利益(対前年度一六%の伸び率)と四八億九千万円余の当期利益を上げている。一方、被告銀行を含む新潟県地元四行の預金残高と資金占有率のシェアの推移をみると、被告銀行は昭和五三年三月から昭和六〇年三月まで常に四〇%以上を維持し、昭和五五年三月からは四七%を占めている。被告銀行は、県内でも法人企業所得のトップを占め、第二位の北越銀行と比較しても格段の差がある。

以上のように、被告銀行の業容は極めて順調な伸びを示しており、経営環境の悪化により人件費の負担が経営に耐えられないものであるとする被告銀行の主張は誇張も甚だしい。

被告銀行の賃金水準が他行を上回るのは、これまで被告銀行の業容が好調であったことのほか、本件定年後在職制度が存在していたことによるものである。他行の賃金水準がそれよりも低いからといって本件定年制を実施し、五五歳以降の賃金を大幅に切り下げてよいということにはならない。

(三) 賃金体系見直しの必要性の不存在

被告銀行は、昭和五八年四月一日当時の被告銀行の五五歳以上者の平均月収は、我が国の一世帯当りの一ケ月間の消費支出をはるかに上回っており、新潟県内の年齢段階別平均賃金と比較しても、二倍以上であると主張する。しかし五五歳以降は、一般に消費支出を最大限切り詰め、定年後の生活を維持するための貯蓄に回さなければならないのが実態であり、そもそも平均月収が消費支出を上回っているとか、消費支出が低下することをもって賃金切り下げを合理化する理由には到底なり得ない。同様に被告銀行の賃金が、県内の年齢別平均賃金と比較して高額であるとしても、そのことをもって従前被告銀行において実施され、既得権となっている五五歳達齢後の賃金を大幅に減額してよいということにはならない。

(四) 本件定年制導入に至る労使交渉の経過

本件定年制導入における従業員組合と被告銀行との交渉経過は次のとおりである。

従業員組合は、定年延長問題を検討するため昭和五五年一二月に高齢化問題専門委員会を設置したが、同委員会は、約一年半の検討の後、昭和五七年七月一七日、従業員組合に対し「私たちは、現在定年後在職制度をもっているが、より安定した働く場の確保のために早急に六〇歳への定年延長を実現すべきと考える。定年延長の実現にあたっては、まずだれでもが一定年齢まで勤務することが出来る制度を基本とし、入行から定年退職まで一貫した体系の中で、生きがい、働きがいのもてるものとしていく必要がある。」という基本的認識に立ち、「当面は六〇歳定年制を実現する」とともに、「労働条件としては、入行から定年退職まで一貫した処遇、体系のなかで考えていくことを前提とする」として職務・処遇、賃金・退職金につきいずれも現行体系の継続を求め、あるいはそれを基本とすることを求める内容の答申をした。

従業員組合は、右答申を受け同年八月二二日に開催した定期総会において、昭和五七年度の重要な運動方針として一貫した処遇の定年延長を掲げるとともに、同年一〇月二八日中央委員会の決議を経て被告銀行に対し次の内容で定年延長を要求した。

「1 延長の形態

だれでもが引き続き勤務することができる定年延長とする。

2  定年年齢

定年年齢は満六〇歳とする。

3  労働条件

(1) 職務・処遇

職務・処遇については現行の体系を継続して考え、生きがい、働きがいのもてるものとする。

(2) 賃金および退職金

賃金および退職金については現行諸制度および体系を基本とする。

(3) 福利厚生その他の労働条件

現行の諸制度、諸規定を継続適用する。

4  実施日

昭和五八年四月一日

従業員組合の右要求に対し、被告銀行は昭和五八年二月一日に回答を行ったが、その内容は職員の要求からかけ離れたものであった。すなわち、被告銀行の回答は、職位、処遇が定年まで一貫したものではなく、特に労働条件の中核でありかつ働きがいと密接にかかわる賃金を大幅にダウンさせるものであった。被告銀行のモデル計算を前提に五四歳時の賃金を1と仮定して五五歳からの賃金総額を比べると、本件定年後在職制度により五八歳まで勤めた場合と、本件定年制の下で六〇歳まで勤めた場合とを比較したとすると次のようになる(但し、計算を単純化するため本件定年後在職制度の場合は定期昇給をゼロとした)。

本件定年後在職制度の場合

1×三年=3

本件定年制の場合 1×(0.63~0.66)×5年=3.15~3.3定期昇給や退職金等を考えるならば、ほぼ両者は同額となり、まさに二年間ただ働きをするというひどい内容であった。

このように、六〇歳定年制の実現という職員の要求を一見受け入れたかのような形をとりながら、実質上労働条件を著しく改悪するという被告銀行の回答は職員とりわけ中高年齢行員の強い反発を生み、それを背景に組合もその修正を求めた。これに対し被告銀行は昭和五八年三月八日、加算本俸を事務行員については月額五万八〇〇〇円から五万五〇〇〇円に、庶務行員については月額五万二〇〇〇円から四万九〇〇〇円にそれぞれ引き下げ、その分だけ基本本俸を増額するという極くわずかな修正を施した第二回答を提示するにとどまった。これによりモデル計算をすると五四歳時の給与との比較割合は六三~六七%となり、その増加率はわずか〇~一%とまさに微々たるものであった。ところが従業員組合は、同月一一日支部長会議で突如闘う姿勢を放棄して、右第二次回答を受け入れる決定をなし、その方向で組合全体の意思を統一しようとしたのである。このように、被告銀行の修正回答は組合員の願いにほど遠い内容で修正の名に値しないようなものであった。それにもかかわらず、従業員組合執行部がその受け入れを決定したのは、昭和三〇年後半から昭和四〇年にかけての被告銀行による激しいアカ攻撃、分裂攻撃により従業員組合が弱体化し、組合員の権利を断固守り抜く立場に立ち得なかったことによるものであった。

右支部長会議の決定を受けて、各職場では職場会議が開かれたが、中高年齢層を中心に多くの反対意見や疑問が出され、被告銀行の修正回答受諾の執行部提案を否決した職場もあった。例えば、新潟市の古町支店と本町支店で開催された合同職場会議では、圧倒的多数の組合員が反対、保留を表明して執行部案が否決され、また同市内の本町北支店と附船町支店の合同職場会議でも同様に否決された。また本件定年制の適用を直接受ける中高年齢職員の大半は管理職で非組合員でありその数は約三百名にのぼるが、従業員組合はそれらの非組合員の声を参考に聞くとかその生活実態を調査するとかの努力をほとんどしなかったのである。

このように組合員の間に反対や疑問が強く、また中高年齢層の声をほとんど聞かなかったにもかかわらず、従業員組合は同月二八日の中央委員会で被告銀行の修正回答で妥結する決定をし、同月二九日の経営協議会で被告銀行に対しその旨回答し翌三〇日に妥結調印したのである。

以上のとおり、本件定年制に関する協約は、その内容においてもまたその締結手続においても組合員の声とりわけ中高年行員の切実な声を無視した著しく不当なものであった。

2 労働協約の非組合員への拡張適用の不当性

(一) 本件労働協約には満五五歳達齢後の行員が最も打撃を受ける基本本俸と加算本俸がどのように分割されるかの点についての具体的な定めがなく、本件労働協約は本件定年制の中で最も重要な満五五歳達齢者の労働条件の不利益変更部分に関する規定を欠くものであるから労働組合法一七条適用の前提を欠くものであり、同条を原告に適用する余地はない。被告銀行は、定年延長の実施ならびにこれに伴う人事諸制度の一部改正についてと題する書面によって加算本俸の額を定め、満五五歳達齢の行員に対し加算本俸を差し引いた基本本俸のみを支給することにより賃金の大幅切り下げを行っているが、右の書面は従業員組合と被告銀行の双方が署名し、または記名押印した書面ではなく労働協約としての形式的要件を欠くものであり、労働協約としての効力を有しないものであるから、右書面を根拠として労働組合法一七条を適用することもできないと言わなければならない。

(二) 労働組合法一七条により労働協約に一般的拘束力が認められた趣旨は、労働協約の適用を受けない未組織労働者に対する不当な労働力の買いたたきを防止することによって労働組合の団結の維持強化を図り、さらには無権利な状態におかれた未組織労働者の労働条件を高めることによって等しく労働者の働く権利、生きる権利を保障しようとすることにあり、統一的な労働条件の設定を直接の目的とするものではないから、未組織労働者が労働協約基準より有利な労働条件で雇用されている場合には労働協約の一般的拘束力は及ばないと解すべきである。本件定年後在職制度が本件定年制よりも原告に有利であることは前述したとおりであるので、原告には労働組合法一七条の適用はない。

(三) 労働組合の締結する労働協約といえども、全ての組合員が完全に満足するような労働条件基準を設定することは不可能である。しかしながら本件定年制のように定年延長に伴う労働条件の変更が、組合員間さらには非組合員をふくむ行員間とりわけ中高年齢層と若年層との間で深刻な利害対立をはらむような事項については、労働組合は誠実かつ合理的な手続を経て利害調整を行い、組合員の利益を公正に代表して使用者と交渉し労働協約締結を行うべき義務(公正代表義務)を負うものと解すべきであり、労働組合が従業員の四分の三以上を組織している場合には労働組合法一七条により労働協約が非組合員に対して拡張適用されるのであるから、労働組合は非組合員に対しても公正代表義務を負うと解するのが相当である。そして労働組合が労働協約締結に至る団体交渉において全ての組合員や非組合員の利益を公正に代表しなかったとみなされる場合には、不利益を受けた組合員または非組合員が、裁判所に対して個別的に労働協約の特定条項の無効を主張することが認められるべきである。

従業員組合は、被告銀行の行員の四分の三以上を組織する労働組合であるから、非組合員である原告に対しても公正代表義務を負っているというべきである。そして本件労働協約締結に至る従業員組合と被告銀行との交渉の経過は、右1(四)で述べたとおりであり、従業員組合は、本件定年制の実施により直接大きな打撃を受ける満五五歳達齢直前の中高年齢層の行員から十分に意見を聴取しないまま労働協約の締結を行っており、その間本件定年制の実施によって最も不利益を受ける該当層の行員の処遇を配慮するなど全行員の利害調整を誠実かつ合理的に行った形跡は全くない。

もし、従業員組合が満五五歳達齢直前の該当層の処遇に思いを致し、五五歳以降賃金が低下し、年間水準が五四歳の時の六三%~六六%程度ということでは、現行制度との関連からしても率直にいって不満であり、納得し難いという該当層の意見に十分に耳を傾け、若年層と該当層間の深刻な利害対立を誠実に調整する態度を最後まで貫いていたら、被告銀行が提案したわずかの修正回答に動ずることなく、本件定年制の協定を断固として拒否し、さらに団結を強化して名実ともに満六〇歳定年制にふさわしい協定を締結することができたはずである。従業員組合は、被告銀行との定年延長交渉の妥結にあたり、定年延長による五五歳以降の賃金水準については、単年度の中では、大幅な改善は無理としても、五四歳水準との比較の中で着実に改善を積み重ねていくことが必要であると総括しているが、当面、中高年齢層の行員の賃金の大幅減額にどう対処するかの視点は全く欠落していたのである。

このような従業員組合の態度は、本件定年制によって直接不利益を被る該当層の意見を正しく反映しないものであり、労働組合に求められる公正代表義務に違反するものであるから、原告にはその効力が及ばないものと解すべきである。

七  原告の反論事実に対する認否

1  原告の反論1(一)ないし(四)の事実は争う。

2  原告の反論2(一)ないし(三)の事実は争う。

第三  証拠関係<省略>

理由

第一  本案前の主張について

一被告銀行は、請求の趣旨第1項の請求のうち将来の給付を求める部分について、将来の昇給、賞与、就任不定の役職についての手当等の全く不確定な具体的請求権として成立していないものを根拠にしていると主張するが、昇給、賞与、役付手当などについてもこれを取得することが客観的に相当程度の蓋然性をもって予測される場合にはこれを将来の賃金額の算定にあたって考慮することができるというべきであり、将来の給付を求めているのは昭和六二年八月一〇日以降同年一二月一〇日までの短期間の将来の賃金であること、この期間の賃金について被告銀行が原告の請求する金額を支払わないであろうことは弁論の全趣旨から明らかであることからすれは請求の趣旨第1項の請求のうち将来の給付を求める部分についてはあらかじめその請求をなす必要が認められるとするのが相当である。

二さらに、被告銀行は、請求の趣旨第2項の訴えはいずれも将来の不確定な法律関係に関するものであり確認の利益が認められないと主張するが、原告は原告と被告銀行との間の現在の雇用契約に基づき請求の趣旨第2項記載の雇用契約上の地位を有することの確認を求めているのであるから、将来発生すべき法律関係の確認を求めているわけではなく、被告銀行の主張は採用できない。

三従って、被告銀行の本案前の主張はいずれも理由がない。

第二  本案について

一請求の原因1(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがなく、原告本人尋問(第一回)の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は昭和六〇年二月一〇日付で融資第一部部長補佐から営業推進部部長補佐となり、昭和六一年一二月からは業務役の職にあることが認められる。

二請求の原因2の事実は当事者間に争いがない。

三そこで、請求の原因4の事実について判断する。

1(一)(1) 請求の原因4(一)(1)の事実中、職員組合が昭和二一年一〇月二四日に被告銀行頭取あてに御願と題する書面を提出したこと、その御願と題する書面に原告主張の事項が記載されていたこと、右御願に対し被告銀行がこれに応じなかったこと、昭和二二年五月一八日第二回組合大会が開かれ原告主張の決議がなされたこと、同月二四日職員組合から被告銀行に再度御願と題する書面が提出され、それには原告主張の事項が記載されていたこと、右御願いに対し被告銀行が原告主張の趣旨の回答を行ったこと、そして、更に請求の原因4(一)(2)の事実のうち、被告銀行が昭和二三年一月一日実施の就業規則を制定したこと、その就業規則には「三、退職ニ関スル事項」として「3停年(満五五才)ニ達シ解職サレタルトキ」に職員は退職する旨の規定及び「四、退職手当ニ関スル事項」では、「(六)勤続年数ハ当該職員ノ当行入店ノ日ヨリ解職辞令ノ日迄トス」とし、昭和二二年四月一日以後「新ニ満五八才に達スル者ハ満五八才ニ達シタル翌日ヨリノ勤続年数ハ打切トス」とする規定があったことはいずれも当事者間に争いがない。

(2) <証拠>を総合すれば、以下の事実が認められる。

被告銀行においては、昭和二一年八月二八日、職員組合が結成され、同年一〇月二〇日、職員組合は第一回組合大会を開催し、定年に関する件など諸要求についての決議を行い、この決議に基づき被告銀行に対し、同月二四日、御願と題する書面を提出し、定年に関しては定年を三年延長して満五八歳とすること、既に満五八歳に達している者については職員組合と打合せて引続き在職させるか退職させるかを決定することなどを要望した。これに対して被告銀行は定年制の件については現状を変更しないとの回答を行ったが、職員組合は定年制の件については次期組合大会まで保留の扱いにすることとし、それまでの間は各支店長に対し定年該当者につき進退に関する話が被告銀行からあった場合には本人と所属の行員の意向を聞きこれを基礎として回答することを求めることとした。

職員組合は、昭和二二年五月一八日に第二回組合大会を開き、その決議に基づき同月二四日被告銀行に御願と題する書面を提出したが、そこでは、定年に関して、定年を三年延長して満五八歳とすることを再度要望するとともに高齢者から逐次定年制を実施することを要望している。これに対して被告銀行は同月三〇日「定年制の件については定年を規定の上で三年延長するということは今少し経済界の情勢を見極めた上で決定することとしそれまでは従前通りの姿で行きたい。」との回答を行った。なお原告は被告銀行の右回答は同月二七日に行われ、これを受けて同月三〇日に職員組合と被告銀行の間で協議が行われたと主張するが、被告銀行の右回答の控の書面(乙第九号証)の日付が同月二七日であるからといって被告銀行の右回答が同日に行われたとすることはできず、他に同日に被告銀行の右回答が行われ、同月三〇日に職員組合と被告銀行の間で協議が行われたことを認めるに足りる証拠はない。また原告は同月三〇日の協議により被告銀行は行規上は満五五歳の定年を満五八歳に改定しないが、職員組合の要求を実質的に入れて定年を満五八歳として運用することを承諾したと主張する。しかし、前掲甲第四五号証の一、二(第四銀行職員組合報告)の第二回大会決議に対する銀行側回答の記載欄には、被告銀行は「実質的には組合の御願の線に沿って運営するから成文化することは見合すことで承知されたい」と回答したとの記述があるが、被告銀行の回答の控の書面の内容もあわせ考慮すれば、「実質的に組合の御願の線に沿って運営する」とは当分の間は五五歳の定年を実施せず定年を三年延長する扱いとするということを意味するにすぎず、被告銀行が職員組合の要求を実質的に入れて定年を満五八歳として運用することを承諾したと認めることはできない。更に、原告は、昭和二三年一月一日に実施された就業規則の規定は、満五五歳を定年としながら、被告銀行から解職辞令を受けることで退職となるとし、満五五歳に達齢しても当然には退職とならず満五五歳を超えても在職することが予定されている規定の仕方となっており、退職手当では満五八歳までを退職金計算の勤続年限としているなど昭和二二年六月三〇日に職員組合と被告銀行との間で行われた規定上の満五五歳定年は変えないが、実際の運営においては定年を満五八歳と取扱うとの定年制に関する合意を反映した規定となっていると主張するが、就業規則の右規定だけでは定年制に関し原告の主張するような合意が行われたことを推認することはできない。

(二)(1) 請求の原因4(一)(3)の事実のうち、職員組合が昭和二四年に退職金改訂の要求を提出したこと、退職金の支給に関する調停事件が地労委に係属したこと、同年一二月一二日地労委から調停案が提示され、同月二二日、従業員組合及び被告銀行ともにこれを受諾し、同日退職金支給に関する協定を締結したこと、更に請求の原因4(一)(4)の事実のうち、被告銀行が昭和二四年一二月二三日従業員組合に対し「退職金規程の勤続年数に関する件」と「停年規程に関する件」とについての協議を申し入れたこと、右の協議申し入れの内容が原告主張のようなものであったこと、被告銀行と従業員組合は右の二つの事項について協議し地労委の事実上の斡旋を経て昭和二五年三月三〇日に被告銀行と従業員組合との間で協定が締結されたこと、右協定の内容がほぼ原告主張のとおりのものであることはいずれも当事者間に争いがない。

(2) <証拠>を総合すれば、以下の事実が認められる。

職員組合は、昭和二四年一月一一日、被告銀行に対し退職金の大幅な増額要求を行い、同年八月に第四銀行職員組合から改称された第四銀行従業員組合は、同月三〇日、中央労働委員会に対し退職金問題について調停の申請をし、同調停事件は同年一〇月七日に地労委に移送された。同年一一月五日の地労委退職金調停委員会において、被告銀行は、被告銀行の定年は昭和二二年に職員組合の要求で三年延長されて満五八歳となっているのだから退職金は幾分割引して考えてよいのではないかとの主張をしたが、これに対して従業員組合は、定年を三年延長してあることと退職金とは全然関係がなく、五五歳から五八歳までの人は給料を退職金としてもらっているのではなく労働の報酬としてもらっているのであり、被告銀行は五五歳から五八歳までの人が労働能力がないのにもかかわらず働かしてやっているのだと考えているのではあるまいと反論し、退職金の問題と定年制の問題は無関係であることを主張した。地労委は、昭和二四年一二月一二日に調停案を勧告し、この調停案についての説明を行ったが、その席上で被告銀行は、調停案では三〇年勤続者をもって一生涯を銀行業務に捧げたものと見ているが、被告銀行では定年を五八歳まで延長している建前からいってうなずけないとの意見表明を行った。

地労委の調停案を受けて、従業員組合と被告銀行は、同月二〇日から同月二二日までの三日間にわたって経営協議会の場で協議を行ったが、被告銀行は同月二〇日の経営協議会において、「定年満五五歳までを厳守し、五八歳まで事実上延長の取扱いを廃止する。但し、昭和二五年一月一日満五四歳を超ゆる者の取扱いについては昭和二五年一二月末までに逐次実施する事」及び「前項但書に関する取扱いについては昭和二五年一月一日満五五歳を超ゆる者は同日を以て、同日以後満五五歳に達する者はその日を以て勤続年数を打切る。なお昭和二五年一月一日満五五歳を超ゆる者には定期昇給を行わず」との提案を行った。これに対して、従業員組合は、「銀行員は仕事の性質からいって五八歳まで充分能率を落さず働いていけると思うし、社会情勢から見て我々の生活もまだ正常の状態に復帰しておらず、被告銀行の経営がこれをやらねば困るというならまだしも現在の経営状態ではこの必要性を認めない。」などと強く反対し、退職金改定問題と定年制の問題とは切り離して協議するよう要求したので、定年制の問題は、退職金改定問題とは一応切り離して日を改めて協議することとされた。その結果、同月二二日、従業員組合及び被告銀行ともに地労委の調停案を受諾し、同日退職金についての協定書を取り交した。更に、<証拠>によれば、昭和二五年三月三〇日の協定で定年制に定年制に関する現行制度の改正までの間の暫定的措置として満五五歳に達したる日から退職する日までの期間について支給するとされた特別慰労金についての規定が本件定年制実施の直前まで被告銀行の行規または就業規則にあり、本件定年制の実施に伴って廃止されたことが認められる。

(三) 請求の原因4(一)(5)の事実のうち、被告銀行が、昭和二六年八月一日、昭和三六年六月一日、昭和四〇年九月一〇日にそれぞれ就業規則の定年制に関する規定を変更したこと、変更されたそれぞれの規定の内容が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

2 被告銀行の定年制についての運用の実態を検討する。

(一)  <証拠>を総合すれば以下の事実が認められる。

本件定年後在職制度の運用の実態を男子一般行員についてみると、昭和三二年度から昭和五八年度までの二七年間に満五五歳以上で退職した者は合計で三八四名であり、満五五歳で退職した者は二〇名であって、三六四名の者が満五五歳を超えて在職している。満五五歳で退職した者の内訳は自己都合九名、病気七名、転職三名、不明一名である。自己都合九名、転職三名の計一二名は自らの意思で本件定年後在職制度の適用を希望しなかった者であるからこれを除くと、病気の者以外の者に対する本件定年後在職制度の適用率は約99.7パーセント(三六四÷三六五×一〇〇)である。また自己都合の九名について本件定年後在職制度の適用を希望しながらその適用を受けられなかったものであると仮定しても、病気の者以外の者に対する本件定年後在職制度の適用率は約97.3パーセント(三六四÷三七四×一〇〇)である。本件定年後在職制度の適用を受けた男子一般行員三六四名のうち満五八歳で退職した者は二八九名であり、満五八歳未満で退職した者は七五名である。満五八歳未満で退職した者の内訳は転職四二名、病気、死亡一七名、役員就任八名、自己都合三名、不明五名である。転職四二名、役員就任八名、自己都合三名の計五三名は自らの意思で満五八歳まで勤務しなかったのであるからこれを除くと、病気(死亡を含む。)の者以外の者に対する本件定年後在職制度の満五八歳までの適用率は約九八パーセント(二八九÷二九五×一〇〇)である。また自己都合の一二名(満五五歳で退職した者のうちの自己都合の者九名と満五五歳を超え満五八歳未満で退職した者のうちの自己都合の者三名との合計)について本件定年後在職制度の満五八歳までの適用を希望しながらその適用を受けられなかったものであると仮定しても、病気(死亡を含む。)の者以外の者に対する本件定年後在職制度の満五八歳までの適用率は約94.1パーセント(二八九÷三〇七×一〇〇)である。次に本件定年後在職制度の運用の実態を男子庶務行員についてみると、昭和三二年度から昭和五八年度までの二七年間に満五五歳以上で退職した者は合計で一二八名であり、満五五歳で退職した者は七名であって、一二一名の者が満五五歳を超えて在職している。満五五歳で退職した者の内訳は病気三名、不明四名である。従って、病気の者以外の者に対する本件定年後在職制度の適用率は約96.8パーセント(一二一÷一二五×一〇〇)である。本件定年後在職制度の適用を受けた男子庶務行員一二一名のうち満五八歳で退職した者は一一四名であり、満五八歳未満で退職した者は七名である。満五八歳未満で退職した者の内訳は七名全員が病気、死亡である。従って、病気(死亡を含む。)の者以外の者に対する本件定年後在職制度の満五八歳までの適用率は約96.6パーセント(一一四÷一一八×一〇〇)である。

(二)  右の認定に対し、被告銀行は甲第六〇号証、第六一号証の一ないし三は正確性に欠けるものであると主張するので、この点について判断する。

<証拠>を総合すれば、甲第六〇号証、第六一号証の一ないし三の作成方法は以下のとおりであることが認められる。

甲第六〇号証の作成にあたっては被告銀行が発行している社内報である行報(行報は原則として月一回発行されており、昭和二八年一〇月ころから現在まで継続して発行されている。)の人事消息欄から定年退職者及び本件定年後在職制度の適用を受けた者を拾い出すことが基本とされた。退職時の年齢については、行報の人事消息欄に記載のあるものはそれにより、記載のないものは本件定年後在職制度の適用の記載のある行報から定年退職の記載のある行報までの経過期間により退職時の年齢が算出されたが、この方法によることができないときは、当該退職者について退職年度または前年度の職員録(職員録は被告銀行が年一回または二回発行しているもので、店課ごとに役職、資格、行員番号、氏名、年齢等が記載され、全職員を網羅している。)が調べられ、それに記載されている年齢により退職時の年齢が判断された。また退職理由については、行報に記載されて判明している者はそれによったが、記載されていない者については本人や家族等に問い合わせて調査を行った。甲第六一号証の一ないし三は、甲第六〇号証の記載をもとにしてその集計結果を一覧表にしたものである。

被告銀行は訴外星忠平の退職時の年齢は五七歳二か月であるにもかかわらず甲第六〇号証では同人が満五八歳まで在職したとされているなどの誤りがあると主張し、<証拠>によれば、退職時の年齢は、訴外星忠平が五七歳二か月、訴外小畑義夫が五七歳一〇か月、訴外飯塚知義が五七歳六か月であるにもかかわらず、甲第六〇号証ではいずれも満五八歳で退職していると記載されていることが認められるが、そのような誤りがあったのは三名と少数であること、実際の退職時の年齢との相違はわずか数か月であることからすれば、右の事実は甲第六〇号証、第六一号証の一ないし三の正確性に疑問を抱かせるに十分なものであるとはいえず、右の証拠の正確性は概ねこれを肯定することができる。

また被告銀行は被告銀行の就業規則及び人事関係取扱要領などには本件定年後在職制度の適用について女子行員を除外するとの規定はないのであるから本件定年後在職制度の運用の実態をみる場合には女子行員をも含めなければならないと主張するが、<証拠>によれば昭和三二年から昭和五八年までの間に女子行員の満五五歳達齢者は三四名いたこと、そのうちで本件定年後在職制度の適用を受けたのは昭和五八年二月に満五五歳達齢となった訴外石田マサ子一名だけであることが認められ、被告銀行においては本件定年後在職制度の適用について男子行員と女子行員とでは異なった取扱いをしていたのであるから、本件定年後在職制度の運用の実態をみる場合に男子行員と女子行員とを一緒にして検討するのは相当ではない。

3 請求の原因4(三)の事実のうち、昭和五七年四月発行の従業員組合の「組合員必携」に原告主張の事項が記載されていることは当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実に<証拠>を総合すれば以下の事実が認められる。

昭和三八年一〇月発行の従業員組合の組合員必携には定年について次のとおりの記載がなされている。

「停年に関する協定は次の通りである。

1 職員が五五才に達したときは、停年とし退職させるものとする。

2 但し引続き在職の必要を認める者に対しては、その停年を延長することができる。

3 停年延長の期間は三ケ年とする。

4 停年延長に関しては、第一項に拘らず次の理由に基づく申請により実質上連用されている。

イ 引続き仕事をなすに差支えない健康状態であること。

ロ 家庭の事情により勤務する必要あること。

(註)上にみる通り停年に関しては宣言規定として五五才。実質五八才である。」

定年制に関する右と同一の記載は、昭和三八年一〇月の組合員必携から昭和五七年四月発行の組合員必携までの約二〇年間にわたって継続的に掲げられてきた。組合員必携は被告銀行の管理職にも配付されてきたものであるが、被告銀行が従業員組合に対し定年制に関する組合員必携の記載を訂正するように申し入れたことはなかった。

4 請求の原因4(四)の事実について検討する。<証拠>によれば、被告銀行が発行する社内報である行報の昭和三九年四月号の人事消息欄には退職停年五八歳として三名の名前の記載が、昭和四〇年三月号の同欄には退職(停年五八歳)として二名の名前の記載が、昭和四三年一月号の同欄には退職(停年五八歳)として三名の名前の記載がそれぞれあることが認められる。

5(一) 請求の原因4(五)の事実について検討する。<証拠>によれば以下の事実が認められる。

従業員組合が昭和五七年七月に出した高令化問題を考えようと題する書面の定年延長の検討にあたってとの項には「私たちは現在定年制については、定年は五五歳としつつも健康状態、家庭の事情などにより、その後三年間を限度として勤務することができる、実質定年五八才の定年後在職制度をもってきています。定年後もそれ以前と変わらない条件で三年間引続き勤務することができるこの制度は、定年後の生活確保の観点からも大きな支えとなっています。しかしながら、この制度は老後の生活確保といった観点からの勤務延長形態であり、その運用にあたって健康状態、家庭の事情など一定の基準が設けられていることも、やむをえない面があります。そうしたことから私たちは、高令化が進展していくなかにあって、だれでもが一定年令まで勤務できる定年そのものを延長していく必要があろうかと考えます。」との記載がある。また従業員組合が昭和五七年一〇月に出した定年延長実現にむけてと題する書面の定年延長の必要性についてとの項には「私たちは現在定年制については、定年は五五歳としつつも健康状態、家庭の事情などにより、その後三年間を限度として勤務することができる、実質定年五八歳の定年後在職制度をもってきています。定年後もそれ以前と変わらない条件で三年間引続き勤務することができるこの制度は、これまでのながい歴史的過程のなかで慣行として築きがあげてきたすぐれたものであり、定年後の生活確保の観点からも大きな支えとなっています。六〇歳定年制がさけばれている現在、私たちは働く場をさらに拡大していくなかで身分保障をより安定したものとしていくため、だれでもが一定年令まで勤務できる定年そのものを延長していく必要があります。」との記載がある。本件定年制の交渉過程で、従業員組合は被告銀行に対し「我々は現行定年制について定年は五五歳としつつもこれまで長い歴史的過程のなかで慣行として築きあげてきた実質定年五八歳の定年後在職制度をもってきている。定年後もそれ以前と変わらない条件で引き続き勤務することができるこの制度は我々にとって大きな支えとなっているものである。六〇歳までの生きがいのある働く場を確保し、より安定した身分保障と生涯にわたる経済的基盤の確立をめざす要求主旨からしても五五歳以降から高令者を特別な対応で延長者として区別するような考え方については到底納得できるものではない。」との主張や「我々は慣行として築きあげてきた定年後在職制度をもってきたことを踏まえれば、臨給が三か月程度として示された年間賃金水準では納得できない。」との主張を行った。

(二)  他方、被告銀行は、本件定年後在職制度を適用するか否かについては被告銀行の裁量に属し、従業員が被告銀行に対し当然に満五八歳まで勤務することができる権利を有していたわけではないと主張するので、以下この点について判断する。

(1) <証拠>を総合すれば、本件定年後在職制度の手続については、以下の事実が認められる。

昭和四六年ころに作成された被告銀行の人事関係取扱要領の二八条には「満五五歳の停年となり引続き在職を希望する場合には『なお健康上充分勤務に耐え得る見込にて、かつ家庭事情よりも引続き勤務を要するにつき在職御許可相成度』旨の願書に健康診断書及び部課店長の副申を添えて人事第一課経由頭取宛提出すること。」との規定があった。満五五歳に達する被告銀行の従業員が本件定年後在職制度の適用を求める場合には、健康診断書及び部課店長の副申を添えて被告銀行に定年後在職願を提出しており、被告銀行が当該従業員について本件定年後在職制度の適用を認める場合には、「停年後引続いて当分の間在職が認められましたのでご通知いたします。」との内容の停年後在職発令通知書を交付していた。

(2) 被告銀行は本件定年後在職制度の適用にあたっては右のような手続が必要であることを根拠にして、本件定年後在職制度を適用するか否かについては被告銀行が業務上の必要性、当該従業員が健康上充分勤務に耐え得る見込みがあるか否か、家庭の事情により引き続き勤務する必要があるか否か及び当該従業員の職務遂行能力を総合的に判断して決定しており、本件定年後在職制度の適用については被告銀行に裁量が認められていたと主張し、これに沿う<証拠>も在するが、前記認定のとおり被告銀行の人事関係取扱要領二八条には勤務に耐え得る健康状態であること、動務を必要とする家庭事情であることの二つがあげられていだけであること、前記認定のとおり男子一般行員の病気(死亡を含む。)の者以外の者に対する本件定年後在職制度の満五八歳までの適用率が約九八パーセント(低めに見積っても約94.1パーセントである。)であり、男子庶務行員の同様の適用率が約96.8パーセントであることからすれば、業務上の必要性及び当該従業員の職務遂行能力についてはもちろんのこと、男子行員については勤務を必要とする家庭事情であることについてもこれを審査する裁量権を被告銀行が有していたとしても運用面で、それを充分に生かして運用していたものとは到底認められない。従って、男子行員について本件定年後在職制度を適用するか否かを検討するにあたっては、被告銀行は当該男子行員が勤務に耐え得る健康状態であるか否かを審査することで運用していたものであると認めるのが相当というべきである。このことは、視点を変えていえば、被告銀行における人事管理面の適確性を意味付けているということができる。

(3) 更に、被告銀行は、就業規則の規定からしても本件定年後在職制度を適用するか否かについて被告銀行に裁量が認められていたことは明らかであると主張するので、この点について検討する。

前記第二、三1(一)及び(三)に認定の事実に、<証拠>を総合すれば、被告銀行は以下のとおりに定年制に関する就業規則の規定を作成、変更したことが認められる。

① 昭和二三年三月一日

「三退職ニ関スル事項

(一)職員ノ退職スル場合左ノ如シ

1死亡

2自己ノ都合ニヨリ退職ヲ願出テ承認サレタルトキ

3停年(満五五歳)ニ達シ解職サレタルトキ

4休職期間(六ケ月)ガ満了シ復職ヲ命ゼラレザルトキ

5懲戒免職セシメラレタルトキ

6銀行ノ都合ニ依リ解雇セラレタルトキ

(二)(一)ノ5、6ノ理由ニ依リ解雇セシムル場合ニハ銀行ハ労働協約ニ依リ予メ職員組合ノ同意ヲ求ムルモノトス」

② 昭和二六年八月一日

「(停年)

第三十条 職員は満五十五歳に達したとき停年とし退職させるものとする、但し願出により引続き在職を必要と認める者は停年後も引続き勤務させることがある」

③ 昭和三六年六月一日

「第五四条(停年) 職員の停年は満五五歳とする。但し、願出により引続き在職を必要と認めた者については三年間を限度として、その停年を延長することがある。」

④ 昭和四〇年九月一〇日

「第五九条(停年) 職員の停年は満五五歳とする。但し、願出により引続き在職を必要と認めた者については三年間を限度として、停年後在職を命ずることがある。」

⑤ 昭和五八年四月一日

「第五九条(定年) 行員の定年は満六〇歳とする。」

(4) 右に認定の事実によると本件定年後在職制度は右認定の就業規則の定年に関する規定の但書に根拠を有するものであり、就業規則の規定上は被告銀行に裁量権が認められる形になっていることは被告銀行の主張するとおりであるが、本件で問題となっているのは本件定年後在職制度の実際上の運用がどのようになっていたかということであるから、就業規則の規定だけからは、本件定年後在職制度の適用について被告銀行に業務上の必要性、勤務に耐え得る健康状態であるか否か、勤務を必要とする家庭事情であるか否か、当該従業員に職務遂行能力があるか否かについて審査する裁量があったと認めることはできない。

(三)  更に被告銀行は本件定年後在職制度の適用を認める場合、「定年後一年間に限り」などと期限を付して適用を認める場合があったのであるから、本件定年後在職制度の適用については被告銀行に裁量権が存在したと主張するので、この点について検討する。

<証拠>を総合すれば、訴外金子健造、同和久井秀一、同小杉公平、同星野康二及び同高坂謙は一年間に限りと期限を付したうえで本件定年後在職制度の適用が認められたこと、昭和三二年度から昭和五八年度までの二七年間に一年間に限りと期限を付したうえで本件定年後在職制度の適用が認められた者は右の四名にすぎないこと、右の四名のうち訴外和久井秀一と同星野康二について一年間に限りとの期限が付されたのは病気が原因であることが認められ、これによれば定年後一年間に限りという期限を付して本件定年後在職制度の適用を認められた者がいるからといって本件定年後在職制度の適用について被告銀行に被告銀行の主張するような裁量権があり、それに基づいて運用される実態があったとは認めることはできない。

6 以上の認定事実によると、昭和二二年六月三〇日に被告銀行から従業員組合に対し、当分の間は満五五歳の定年を実施せず定年を三年延長する扱いとする旨の回答がなされたこと、また満五五歳の定年を厳守したいなどの被告銀行の申し入れを受けて昭和二五年三月三〇日に従業員組合との間で締結された協定において、定年制に関する現行制度の改正までの間の暫定的措置として満五五歳に達したる日から退職するまでの期間について支給するとされた特別慰労金についての規定があり、右規定の趣旨が、本件定年制実施の直前まで被告銀行の行規または就業規則にあり、本件定年制の実施に伴って廃止されたこと、男子一般行員の病気(死亡を含む。)の者以外の者に対する本件定年後在職制度の満五八歳までの適用率が約九八パーセント(低めに見積っても約94.1パーセント)であり、男子庶務行員の同様の適用率が約96.7パーセントであること、組合員必携に長年にわたって停年に関しては宣言規定として五五歳、実質五八歳であるとの記載がなされてきたことによれば、男子行員については、勤務に耐え得る健康状態である限り満五八歳まで本件定年後在職制度の適用を受けることができるという慣行が長年にわたって行われてきたと認めることができ、右の慣行は、被告銀行とその従業員らとの間で、運用され、これまで、明示的に右慣行によることは排斥する事実は全く認められず、運用面において、被告銀行内の制度として確立していたということができる。そうだとすると、被告銀行における本件定年後在職制度の適用を受けるということは、事実たる慣習として、被告銀行およびその従業員双方に対する拘束力を有していたと認めることができ、それは、被告銀行の就業規則を補充していると解するのが相当である。

四請求の原因5の事実について検討する。

<証拠>によれば、本件定年後在職制度のもとでは満五五歳を超える者についても被告銀行の行規の規定に基づいて標準以上の定期昇給が実施されてきたこと、被告銀行においては昭和五四年以降は賞与は「(本俸プラス扶養親族手当プラス役付手当)乗ずる上期3.3か月(下期3.5か月)プラス資格別定額」という計算式で算出された額が少なくとも支給されており、本件定年後在職制度のもとでは満五五歳達齢後も右計算式で算出された金額が少なくとも支給されてきたこと、これまでの本件定年後在職制度の運用実態では満五五歳を超える者も従来どおりの役職についており満五八歳で退職するまで役付手当を減額させることはなかったこと(被告銀行は、従業員をどの役職に付けるかは被告銀行の裁量事項であると主張するが、本件定年後在職制度の適用を受けた者で役付手当を減額あるいは支給されなくなった具体例については主張立証を行っていないうえ、原告について、右役付手当を減額されるべき降格処分を受けるに値する具体的事実について、何らの主張、立証もしていない。)が認められる。

五そこで、就業規則の変更による本件定年制の労働条件が原告に対して適用されるか否かを検討するに、新たな就業規則の作成又は変更によって、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないが、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解するのが相当である(最判昭和四三年一二月二五日民集二二巻一三号三四五九頁参照)。

1  そこで、まず就業規則の変更による本件定年制の実施が原告にとって不利益なものであるかどうかについて検討する。

(一) <証拠>を総合すれば、以下の事実が認められる。

被告銀行は本件定年制の実施にともなって定例給与の内訳の金額についての改訂を行い、原告の場合役付手当については八〇〇円の減額を行っているが、資格手当について二〇〇〇円の増額をしており、原告の定例給与は昭和五八年四月分から一二〇〇円の増額となっている。定例給与につき、本件定年制のもとでは従前の本俸が基本本俸と加算本俸とに区分され、満五五歳達齢日の翌月一日以降は加算本俸分の賃金は支給されなくなり、原告の加算本俸分の賃金の減少額は、昭和五九年一二月から昭和六〇年三月まで毎月五万八一〇〇円、昭和六〇年四月から昭和六一年三月まで毎月五万九八〇〇円、昭和六一年四月から昭和六二年三月まで毎月六万一二〇〇円、昭和六二年四月から同年一一月まで毎月六万二四〇〇円となる。定例給与につき本件定年後在職制度では満五五歳以降も定期昇給が実施されていたが本件定年制では実施されなくなり、原告の定期昇給分の賃金の減少額は昭和六〇年四月から昭和六一年三月まで毎月二一〇〇円、昭和六一年四月から昭和六二年三月まで毎月四二〇〇円、昭和六二年四月から同年一一月まで毎月六三〇〇円である。本件定年後在職制度のもとでは、満五五歳以降も「(本俸プラス扶養親族手当プラス役付手当)乗ずる6.8か月(夏3.3か月、冬3.5か月)プラス資格別定額」という算定方式で賞与が支給されていたが、本件定年制のもとでは、満五五歳以降は「(基本本俸プラス扶養親族手当プラス役付手当)乗ずる三か月(夏1.5か月、冬1.5か月)プラス資格別定額」という算定方式で賞与が支給されることになったため原告の賞与の減額は昭和五九年冬期分三二万三三一六円、昭和六〇年夏期分一〇〇万八一三六円、昭和六〇年冬期分一〇七万七三九〇円、昭和六一年夏期分一〇四万五一八六円、昭和六一年冬期分一一一万八一三九円、昭和六二年夏期分一一一万五五一六円である。本件定年制のもとでは満五七歳以降は新たな職位に基づく役付手当が支給されることになり、原告の場合は昭和六一年一二月から本部部長補佐から業務役に役職が変更となり、役付手当は月額九万一二〇〇円から四万一二〇〇円へと五万円の減額となった。本件定年後在職制度のもとにおける昭和五九年一二月一〇日から昭和六二年一二月一〇日までの賃金総額は別表1記載のとおり二八六九万六五六一円となる(前掲甲第一一七号証によれば、本件定年後在職制度のもとにおける昭和五九年一二月一〇日から昭和六二年一二月一〇日までの賃金総額は二八七二万〇六四一円となるが、前記認定のとおり本件定年制の実施にともなって原告の役付手当は八〇〇円の減額、資格手当は二〇〇〇円の増額となったのであるから、定例給与については一二〇〇円減額し、夏期の賞与については二六四〇円(800円×3.3)、冬期の賞与については二八〇〇円(800円×3.5)それぞれ増額して賃金総額を算出するのが相当である。)。これに対して本件定年制による昭和五九年一二月一〇日から昭和六四年一二月一〇日までの賃金総額は別表1記載のとおり三〇九三万二二二八円となる(前掲甲第一一七号証においては昭和六三年四月と昭和六四年四月にはいずれもベースアップがなされないものとして賃金総額が算定されているが、昭和五八年四月には一万一八〇〇円の、昭和五九年四月には一万二五〇〇円の、昭和六〇年四月には一万一九〇〇円の、昭和六一年四月には一万〇二〇〇円の、昭和六二年四月には五四〇〇円のベースアップがそれぞれ行われているのであるから、過去五年間のベースアップの平均額一万〇三六〇円のベースアップが昭和六三年四月と昭和六四年四月にそれぞれ行われるものとして賃金総額を算定するのが相当である。)。退職金については、本件定年後在職制度のもとでは原告が満五八歳となる昭和六二年一一月四日に受領する退職金は一二〇五万七三〇〇円であり、本件定年制では原告が満六〇歳となる昭和六四年一一月四日に受領する退職金は一二二九万九〇〇〇円である。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

そこで、本件定年後在職制度のもとにおける昭和五九年一二月一〇日から昭和六二年一二月一〇日までの賃金総額及び退職金の合計額と本件定年制による昭和五九年一二月一〇日から昭和六四年一二月一〇日までの賃金総額及び退職金の合計額とを比較すると、前者は四〇七五万三八六一円となり後者は四三二三万一二二八円となる(なお被告銀行は本件定年後在職制度と本件定年制との賃金の比較を行う場合には本件定年制実施直前の原告の定例給与と原告の満五五歳達齢後の定例給与との比較を行わなければならず、本件定年制実施後に昭和五八年四月、昭和五九年四月にベースアップ及び定期昇給が実施されたために、前者と後者とを比較すると前者が二万八四〇〇円多いにすぎないと主張するが、本件定年制実施後のベースアップ及び定期昇給が、本件定年制が実施される以前の従来のベースアップ及び定期昇給に比較して特別に高額であった場合は従来額を上回る部分について控除したうえで比較しなければならないとはいえるが、そのような主張、立証はないから被告銀行の主張には理由がない。)。そして本件定年後在職制度と本件定年制とを比較すると、本件定年制には賃金及び退職金の繰延払としての意味があるから利息相当分を考慮しなければならず、賃金については別表2記載のとおり一二一万三六一二円が、退職金については一四四万六八七六円が利息相当分となる。従って、利息相当分を考慮すると本件定年後在職制度のもとにおける昭和五九年一二月一〇日から昭和六二年一二月一〇日までの賃金総額及び退職金の合計額は四三四一万四三四九円となり、本件定年制による昭和五九年一二月一〇日から昭和六四年一二月一〇日までの賃金総額及び退職金の合計額を一八万三一二一円上回ることになる。

(二) 以上によれば、就業規則の変更による本件定年制の実施は、労働期間が二年間延長されたにもかかわらず受け取る賃金総額及び退職金の合計額は減少するという点において原告にとって不利益なものであるといえるが、被告銀行は本件定年制は本件定年後在職制度より有利なものであると主張するのでこの点について検討する。

<証拠>によれば、以下の事実が認められる。

被告銀行は、本件定年制の実施にともない満五〇歳以上満五八歳以下で被告銀行を退職する場合には本件定年制実施前に比較し退職金を増額することとし、原告の場合を例にとると、従前であれば五〇歳で自己都合退職した場合には退職金は四五八万九七〇〇円であったのが八八五万一〇〇〇円に、勧奨に応じて他企業へ就職した場合には一五九三万一八〇〇円に増額され、また従前であれば五五歳で退職した場合には退職金は一一七二万四四〇〇円であったのが勧奨に応じて他企業へ就職した場合には一七五八万六六〇〇円に増額され、本件定年後在職制度の適用を受けて満五八歳で退職した場合の退職金は一二〇五万七四〇〇円であったが、自己都合退職で一二〇八万四一〇〇円に、勧奨に応じて他企業へ就職した場合で一三二九万二六〇〇円に増額された。被告銀行には、行員が業務上災害、通勤労災を被った場合において、労働者災害補償保険法に基づく保険給付に加え、業務上災害による休業中の給与、賞与につき、労働者災害補償保険法により支給される休業補償給付等により補償されない部分を補償し、業務上災害により行員が死亡した場合に、その遺族に対し平均給与二五〇日分と九五〇万円を限度として補償を行うこと等を内容とするいわゆる上積み補償のための災害補償規定があり、本件定年制実施前においては、災害補償規定は満五五歳達齢をもって適用対象外となっていたが、本件定年制実施にともない満六〇歳まで適用されることになった。被告銀行には行員が存職中に死亡または傷病による廃疾のために退職した場合に、本人及びその家族に対し年金を支給する家族年金規定があり、本件定年制実施前は満五五歳で適用が打ち切られていたが、本件定年制実施により満六〇歳まで適用されることになり、傷病による廃疾のため退職した行員については子供がいない場合でも本人に月額五万円、配偶者に月額二万円が支給されることになり五年間で合計四二〇万円が、また行員が在職中に死亡し子供がいない場合でもその配偶者に月額五万円が支給され五年間で合計三〇〇万円が支給されることとなった。被告銀行には在職中の行員、定年退職後の行員が死亡または重大な傷害を受けた場合に弔慰金等を支給する一年定期団体保険による弔慰金、傷害見舞金制度があり、本件定年制実施前は例えば原告の資格である主事二級の場合、基礎額四七〇万円、加算額二二〇万円の合計六九〇万円について定年退職時から満六〇歳までの間は八割、満六〇歳を越え満六五歳までの間は五割支給とされていたが、本件定年制実施にともない満六〇歳までを一〇割支給と改め、さらに満六五歳を越えては支給されなかった弔慰金、傷害見舞金を満六五歳を越え満七〇歳までの間は二割五分支給とするように改めた。被告銀行は、本件定年制実施にともない満五五歳以上の世帯主である従業員に対し、貸付限度額を三〇〇万円とする特別融資制度を新設し、行員住宅資金の既往貸出について申出があれば毎月または賞与時の返済額減額等の条件変更に応じる措置をとった。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

しかし、中途退職の場合の退職金が増額され、福利厚生制度の適用年齢が五五歳から六〇歳に引き上げられた利益は、労働時間が二年間延長されながら受け取る賃金総額及び退職金の合計額が減少するという不利益を補って余りあるものとは到底いうことはできない。

また被告銀行は本件定年制により無条件に誰でもが六〇歳までは勤務が認められることになったのは労働者にとって大きな利益であると主張するが、前記認定のとおり本件定年後在職制度は男子行員については勤務に耐え得る健康状態である限り満五八歳まで勤務することができるという制度であり、原告は健康状態について格別の問題を有していたわけではないから、被告銀行の主張するような点において本件定年制が原告にとって本件定年後在職制度よりも有利であるということできない。

従って、就業規則の変更による本件定年制の実施は、原告にとって不利益なものであると認めるのが相当である。

2  次に就業規則の変更による本件定年制の実施が合理的なものであるか否かについて検討するに、就業規則の変更が合理的なものであるか否かを判断するに当っては、変更により従業員の被る不利益の程度、変更の内容自体の相当性、変更との関連の下に行われた代償措置の状況、変更の必要性の原因及び程度、労働組合との交渉の経過等の諸事情を総合考慮する必要があり、以下これらの点について順次検討する。

(一) 従業員の被る不利益の程度

原告については、本件定年制による昭和五九年一二月一〇日から昭和六四年一二月一〇日までの賃金総額及び退職金の合計額は、本件定年後在職制度のもとにおける昭和五九年一二月一〇日から昭和六二年一二月一〇日までの賃金総額及び退職金の合計額を一八万三一二一円下回ることになることは前記認定のとおりであり、これによれば受け取る賃金総額及び退職金の合計額は若干減少するにもかかわらず、二年間労働期間は延長されるという結果になり、就業規則の変更による本件定年制の実施が従業員である原告にもたらす不利益は大きいというべきである。

(二) 変更の内容自体の相当性

被告銀行の本件定年制における五五歳以降の賃金水準が地方銀行他行の定年制における五五歳以降の賃金水準を上回るものであることは当事者間に争いがなく、右当事者間に争いのない事実に、<証拠>を総合すれば、被告銀行が本件定年制を実施する前後において六〇歳への定年延長制度を実施した各地方銀行の賃金水準の中で最も高い群馬銀行の賃金が五五歳から五六歳までの店長級(被告銀行においては参事)の年収六四五万円、次長級(被告銀行においては主事一級)の年収五六二万円、代理級の年収(被告銀行においては主事補一級)四九〇万円、五七歳以降の店長級の年収五六四万円、次長級の年収四八六万円、代理級の年収四九〇万円であるのに対して、被告銀行の本件定年制における賃金は、五五歳から五六歳までの参事の年収七八四万五〇〇〇円、主事一級の年収六七六万九〇〇〇円、主事補一級の年収五一八万三〇〇〇円、五七歳以降の参事の年収六八八万八〇〇〇円、主事一級の年収六〇一万五〇〇〇円、主事補一級の年収四九三万六〇〇〇円であり、被告銀行の本件定年制における五五歳以降の賃金水準は地方銀行の中ではトップクラスのものであること、昭和五七年度の新潟県の五〇歳から五九歳までの年齢段階別平均賃金は、大企業二八万一八六二円、中小企業一七万三七六六円であり、昭和五七年度のわが国の一世帯当り、年平均一か月の消費支出は五五歳から五九歳までの層で二七万九五五八円であるのに対して、本件定年制に基づく年収から平均月収を算出すると、主事二級で五五歳から五六歳まで約五二万円、五七歳以降約四七万円となり、本件定年制における五五歳以降の賃金は新潟県の五〇歳から五九歳までの年齢段階別平均賃金及びわが国の五五歳から五九歳までの層の一世帯当り年平均一か月の消費支出をかなり上回ることが認められる。

従って、本件定年制の賃金水準それ自体をみれば不相当なものであるということはできない。

(三) 変更との関連の下に行われた代償措置の状況

就業規則の変更による本件定年制の実施にともない中途退職の場合の退職金が増額されたこと、福利厚生制度の適用年齢が五五歳から六〇歳に引き上げられたこと等は前記認定のとおりであるが、これらの代償措置によって原告が具体的な利益を得ることはほとんどなく、就業規則の変更との関連の下に行われた代償措置が原告の被る不利益の程度を緩和する度合は低いものと認められる。

(四) 変更の必要性の原因と程度

(1) 定年延長の実現が社会的要請であること、従業員組合が昭和五五年一二月に高齢化問題専門委員会を設置したこと、昭和五七年一〇月二八日に従業員組合から被告銀行に対し六〇歳までの定年延長要求がなされたことは当事者間に争いがなく、右当事者間に争いのない事実に、<証拠>を総合すれば、以下の事実が認められる。

昭和五一年一〇月一日には中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法が改正され、常用労働者の六パーセントの高年齢者(五五歳以上)を雇用することが努力義務として定められ、昭和五二年四月一九日には衆議院社会労働委員会において「政府は、六〇歳未満の定年制を有する企業において当面少なくとも六〇歳定年を実現するよう労使の自主努力を基本としつつ、定年延長のための指導援助の措置を積極的に講じ、もって高年齢者の職業の安定を図るよう格段の努力をなすべきである。」との内容の定年延長の促進に関する件についての決議がなされ、同年五月一二日には参議院社会労働委員会において同様の内容の定年延長の促進に関する決議がなされた。さらに昭和五三年五月二三日には衆議院本会議において、同月二四日には参議院本会議において、「産業、企業の実情に応じ、労使の自主的努力を基本としつつ、労働時間の短縮と週休二日制の推進及び定年の延長等が、着実に進められるよう指導援助を強化すること」などを内容とする雇用の安定に関する決議が行われた。そして、昭和五四年七月二〇日には政策推進労組会議が定年延長推進のための総合的な取り組みを強化することを合意し、「定年延長は六〇歳制度の要求を原則とする。定年延長にともなう現行の賃金、退職金など労働条件の扱いは、社会水準の確保を前提とし、定年制六〇歳を優先させることで対応する。定期昇給を含む年功的な賃金制度の改訂は、中高年層の標準的生計費を確保しうることを最低基準とし、労働の態様に見合った仕事給体系への転換を前提として容認する。定年延長にともなう退職金の扱いについては、弾力的に対応する。」ことなどに十分留意しながら行動することとされた。昭和五六年一〇月には新潟県知事から被告銀行に対し、定年延長及び高年齢者の雇用率六パーセントの実現について書面による要請があり、昭和五七年三月には労働大臣から被告銀行に対し、「六〇歳定年は今や社会的要請となっていることを十分御理解頂きまして、この早期実施に向けて、最大限の御努力を賜りますようお願い申し上げます。」との六〇歳定年制の早期実施要請がなされるとともに定年延長に関する取組み状況の報告が求められた。従業員組合は昭和五五年一二月に高齢化問題専門委員会を設置し、同委員会は、昭和五七年七月までの間に一四回の会合を開き、昭和五七年七月一七日には、「延長の形態は、定年年齢そのものを延長する定年制延長制度とする。定年年齢は、将来的には、六五歳までの雇用の場の確保を展望するも、現在の諸情勢などから当面は六〇歳定年制を実現する。労働条件としては、入行から定年退職まで一貫した処遇、体系のなかで考えていくことを前提とし、職務、処遇については、現行の体系を継続して考え、高齢者としての特別な対応でなく、全員が生きがいをもって働きまた活力ある職場としていくことが必要であり、賃金及び退職金については現行諸制度及び体系を基本とする。その他福利厚生、出向、住宅融資など現行の諸制度、諸規定を引き続き適用するとともに、高齢化社会への対応に向け一層の拡充をはかる。以上のとおり定年延長実現にあたっては、まず誰でもが引き続き安心して働くことが出来る制度を築きあげることが基本であり、より安定した生涯生活を確保する観点から定年延長の実現を提言します。」との内容の答申を従業員組合に対し行った。この答申を受けて従業員組合は、同年一〇月二八日、被告銀行に対し、「だれでもが引き続き勤務することができる定年延長とする。定年年齢を満六〇歳とする。職務処遇については、現行の体系を継続して考え、生きがい、働きがいのもてるものとする。賃金及び退職金については、現行諸制度及び体系を基本とする。福利厚生その他の労働条件については、現行の諸制度、諸規定を継続適用する。実施日は昭和五八年四月一日する。」との内容の定年延長要求を行った。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

以上によれば、本件定年制の実施によって定年年齢を満六〇歳まで延長したのは、被告銀行の経営上の都合や必要に基づくものではなく、むしろ、社会的要請と従業員組合の要求に応えるためであったことが認められる。

(2) <証拠>を総合すれば、以下の事実が認められる。

被告銀行の経営利益は昭和五五年度七〇億五八〇〇万円、昭和五六年度七六億七七〇〇万円、昭和五七年度九七億九七〇〇万円、昭和五八年度一〇九億八五〇〇万円、昭和五九年度一〇〇億九六〇〇万円、昭和六〇年度一〇五億二四〇〇万円である。銀行業界では大蔵省銀行局通達において「各営業年度の配当額は、最高配当限度を額面五〇円の株式について一株当たり年7.5円(額面五〇〇円の株式にあたっては一株当たり年七五円)とし、配当性向四〇パーセントの範囲内で決定する。なお、当分の間、格別の事情のない限り、配当性向が四〇パーセントを超えた場合においても、額面五〇円の株式について一株当たり年五円(額面五〇〇円の株式にあっては一株当たり年五〇円)を超えない配当は、これを行って差し支えない。」との基準が定められており、仮に一〇〇億円の税引前当期利益が生じた場合には、法人税等の税金(実効税率63.5パーセント)を控除すれば、税引後当期利益は三六億五〇〇〇万円となり、配当性向四〇パーセントの範囲内ということから配当しうる金額は最大限で一四億六〇〇〇万円ということになる。そして、各銀行が一〇パーセント以上の配当を維持している中で被告銀行が一〇パーセントの配当を維持できなければ経営内容に不安を与え営業に支障が生じひいては経営基盤そのものに影響を与えるおそれがあり、配当率一〇パーセントを維持するためには昭和六〇年一〇月の増資により要配当資本金一五六億円となった被告銀行においては、三九億円の税引後当期利益、約一七〇億円の税引前当期利益が必要であるということになり、税引前当期利益が一〇〇億円で配当性向四〇パーセントを維持すれば配当率は一〇パーセント以下にならざるをえない。また税引前当期利益が一〇〇億円で一〇パーセント配当を実施すれば配当性向は45.2パーセントとなるが、これは「利益の処分に当たって配当性向を著しい高水準に引き上げるようなことは、今後にありうべき一層厳しい経営環境に対する銀行の適応力を弱めるおそれがあり、銀行決算の在り方として慎重に対応すべきものと考えられる。」との大蔵省銀行局通達の趣旨に反するということになる。また増資前の昭和五九年度の被告銀行の配当性向は31.67パーセトであり地方銀行の平均25.15パーセントを上回っている。

金融機関においては、融資によって得られる利益から預金金利と預金獲得に必要な従業員の人件費、物件費等の経費を控除したものが利益となるが、この利鞘率は被告銀行においては、昭和五一年0.65パーセント、昭和五二年0.30パーセント、昭和五三年0.41パーセント、昭和五四年0.48パーセント、昭和五五年0.07パーセント、昭和五六年0.04パーセント、昭和五七年0.31パーセント、昭和五八年0.19パーセントントと全体的な傾向として減少していたが、昭和五九年にはマイナス0.11パーセント、昭和六〇年にはマイナス0.12パーセントと逆鞘となっている。従って被告銀行の総預金量と当期利益の推移をみてみると、昭和五〇年度の総預金量六九一五億が昭和六〇年度には一兆八一七〇億と約2.63倍(この間の被告銀行と同規模の地方銀行二〇行の平均は七七八九億円から二兆一二七〇億円と約2.73倍である。)に増加したにもかかわらず、当期利益は昭和五〇年度の三九億一一〇〇万円が昭和六〇年度の四四億五〇〇〇万円と約1.14倍(この間の被告銀行と同規模の地方銀行二〇行の平均は四三億四三〇〇円から五九億三九〇〇万円と約1.37倍である。)にしかなっておらず、昭和五〇年度には総預金量の約0.57パーセントの当期利益率であったが、昭和六一年には約0.24パーセントにとどまっている。このような利鞘減少さらには逆鞘の状況にあっては、利息が付かずコストのかからない資金を集めなければならず、内部留保を毎年積み立ててその資金を運用することで利益を生み出していかざるを得ない状態にある。

昭和五六年には銀行法が改正され、昭和五七年四月一日から施行されたが、昭和五六年版大蔵省銀行局金融年報においてはこの改正の背景として、経済社会情勢の変化、銀行業務の大衆化、多様化の進展、国債等の大量発行の問題、国際化の問題があげられており、経済社会情勢の変化の内容としては、「高度成長から安定成長への移行という成長パターンの変化を背景として企業部門の資金需要は鈍化の傾向をみせており、また、企業の自己金融力の強化と相まって銀行離れの現象がみられてきている。さらに、郵便貯金の著増により金融機関の資金吸収への影響がみられる等金融機関をめぐる経営環境はきびしいものとなっている。金融機関にとり健全経営の確保を図るべきことは当然の原則であるが、この要請は従来にもまして強まっていると考えられる。」と指摘されている。このような背景に対応して、昭和五六年の銀行法改正においては、健全経営の確保、公共性、社会性の発揮、国債の大量発行への対応、国際化への対応のための改正が行われたが、昭和五六年版大蔵省銀行局金融年報においては、銀行法改正の理念として、「個別の行政介入を緩和し、銀行の創意工夫と経営努力の発揮を促進することが、競争と能率の追求を通じ、金融組織全体として国民経済のために有効に機能することにもなると考えられる。従来から、銀行行政については、過剰介入あるいは過保護等の批判もみられたところであり、今回の法改正にあたっても、銀行の自主性を尊重するという考え方を基本においているところである。」との指摘がなされている。そして、このような各銀行の経営の自主性を促していくとの観点に立って、昭和五六年の銀行法改正以降、大蔵省は金融行政の自由化、弾力化措置を講じ、昭和五六年六月(第一次)、昭和五七年三月(第二次)、昭和五八年四月(第三次)、昭和五九年五月(第四次)の四回にわたって金融行政の自由化、弾力化についての措置をとった。大蔵省は、昭和五九年五月三〇日、「金融の自由化及び円の国際化についての現状と展望」を公表したが、その中で、金融の自由化進展の現状については、「我が国の金融は、安定成長への移行に伴う経済構造の変化、経済全般にわたる国際化の進展等の下で、構造的変化を遂げつつある。とりわけ、国債の大量発行と内外資金交流の活発化等は、企業、家計における金利選好の高まりや資金調達、運用の多様化、さらには技術革新を通ずる金融の機械化の進展等とあいまって、我が国金融の自由化を促す要因となっている。このような環境の変化の中で、公社債発行市場における発行条件の弾力化、発行形態の多様化等が図られ、また自由金利商品の拡大等により金利の自由化が進むとともに、金融業務が多様化し金融機関等の業際間の垣根も漸次低くなるほど、我が国金融の自由化は着実に進展しつつある。」と述べ、金融の自由化への取り組み方については、「大蔵省としては、新銀行法の制定、証券取引法等の改正を行い、経営の自主性を尊重しつつ、金融、証券行政において諸般の自由化、弾力化措置を逐次講じてきたところであり、今後とも金融の自由化に対しては前向きかつ主体的に対応していく考えである。他方、自由化の急激な進展は、一国の経済秩序の基本である信用秩序に混乱をきたし、金融機関の公共性の十全な発揮を困難とさせ、ひいては国民経済全体に悪影響を及ぼすおそれもある。また、金融の自由化に伴う競争激化から、中小企業金融、地域金融、農林漁業金融等の円滑な疎通が阻害される懸念もある。従って、金融の自由化は、我が国の金融制度、金融慣行等の有する長い歴史と伝統あるいは日本の土壌を踏まえつつ、漸進的に対応していくことが必要である。」と述べている。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

以上によれば、被告銀行は昭和五八年度以降毎年一〇〇億円以上の経常利益をあげているが、一〇パーセントの配当を維持し配当性向を四〇パーセント以内に収めようとする場合には限界に近い利益であり、経営に十分な余裕がある状態ではなく、預貸利鞘の減少、さらには逆鞘いう状況で収益率が悪化しており、金利の自由化をはじめとする金融の自由化政策による競争の激化という厳しい環境の中におかれて、被告銀行には、六〇歳に定年を延長することによる人件費の負担増に十分耐えうるだけの経営上の余裕はなかったことが認められる。

なお、被告銀行は、従業員の五五歳以降の賃金について五五歳時の賃金水準に維持した場合には、全く定期昇給、ベースアップを行わないとして計算しても、五五歳を超え六〇歳以下の者についての総人件費は、昭和五七年度六億二四〇〇万円、昭和五八年度七億九三〇〇万円、昭和五九年度一〇億四五〇〇万円、昭和六〇年度一三億二一〇〇万円、昭和六一年度一九億六五〇〇万円、昭和六二年度二七億三二〇〇万円、昭和六三度三〇億九六〇〇万円、昭和六四年度三四億九四〇〇万円、昭和六五年度三六億五〇〇〇万円となり、これらが定年を六〇歳に延長することによって被告銀行が負担しなければならない人件費増であると主張するが、前記認定のとおり本件定年後在職制度は、男子行員については勤務に耐え得る健康状態である限り満五八歳まで勤務することができるという制度であったのであるから、五五歳以降の賃金を五五歳時の賃金水準に維持した場合の六〇歳に定年を延長することによる人件費増を算出する場合には、五五歳から五八歳までの男子行員の人件費を控除しなければならず、この点において被告銀行の主張は相当ではなく、五五歳以降の賃金を五五歳時の水準に維持した場合の六〇歳に定年を延長することによる人件費増がどの程度になるかは証拠上明確ではないが、前記認定のとおり、被告銀行には六〇歳に定年を延長することによる人件費の負担増に十分耐えうるだけの経営上の余裕はなかったのであるから、六〇歳に定年を延長するにあたり、五五歳以降の賃金水準を見直す必要性は少なくなかったということができる。

(五) 労働組合との交渉の経過

従業員組合が、昭和五七年一〇月二八日、被告銀行に対し、「定年年齢を満六〇歳とする。賃金及び退職金については、現行諸制度を基本とする。」等の内容の定年延長要求を行ったことは前記第二、五、2、(四)、(1)に認定のとおりであり、<証拠>によれば、以下の事実が認められる。

従業員組合からの定年延長要求の後、経営懇談会において三回、経営協議会において二回、被告銀行と従業員組合との間で交渉、協議が行われ、昭和五八年二月一日には、「定年延長要求に関する回答ならびにこれに伴う人事諸制度の一部改定に関する提案」との被告銀行案が提示された。同月二日には団体交渉が行われ、被告銀行案を受けて従業員組合が細目について被告銀行の考え方をただした。その後、同月二八日、同年三月三日、同月五日の三回にわたって団体交渉が行われ、従業員組合は特に賃金水準の引き上げについて強く主張したが、被告銀行は経営の負担には限界があり賃金水準の引き上げには応じられないと回答し、交渉の進展はみられなかったが、同月八日に開かれた団体交渉において、被告銀行は「定年延長要求に関する修正回答ならびにこれに伴う人事諸制度の一部改定に関する追加提案」を提示し、定例給与のうち本俸から差引く加算本俸を事務行員については五万八〇〇〇円から五万五〇〇〇円に、庶務行員については五万二〇〇〇円から四万九〇〇〇円に修正し、行員住宅資金の既往貸出について満五五歳以上の借入者(但し昭和五八年四月一日以降の五五歳達齢者)から申出があれば毎月または賞与時の返済額減額等の条件変更に応じることとし、満五五歳以上の世帯主である従業員に対し、貸付限度額を三〇〇万円とする特別融資制度を新設するとの修正回答を行った。この修正回答を受けて同月九日に行われた団体交渉において、従業員組合は「修正回答が示されたことは一応評価したい。さらに前進した考えは示されないのか。」と問いただしたが、被告銀行は「誠意をもって最大限応えたものであり、これ以上の修正は無理である。是非これで納得してもらいたい。」との回答を行った。その後、同月二九日、従業員組合から被告銀行に対し、定年延長については被告銀行の修正回答にて妥結するとの申し入れがあり、同月三〇日、修正回答で妥結した。

昭和五八年二月一日に定年延長についての被告銀行案が提示されて以来、従業員組合は同月四日に支部長会議を開催し、被告銀行案について検討、討議を行い以後の運動の進め方を確認し、同月一四日から二二日にかけて従業員組合執行委員一三名が被告銀行の全店に出向いて職場会議を開き被告銀行案についての組合員の意見の集約を行った。さらに、同月二六日、翌二七日の二日間にわたって各級役員会議を開き、同年三月二日には中央委員会を開催し、被告銀行案についての討議を行った。そして、同月八日に被告銀行から修正回答が出されてからは、同月一一日に支部長会議を開き、被告銀行の修正回答について賃金水準は十分と言えないが制度全体からみれば一応のものを確保したと考えると評価し、このような被告銀行の修正回答の内容、これまでの被告銀行との交渉経緯、他行状況、今後の交渉見通しなどを総合的に勘案すればこれ以上の交渉の継続は難しいと判断し、被告銀行の修正回答を受け入れる方向に向かうことが確認され、同月一五日から同月二四日にかけて被告銀行の修正回答を受け入れることについての職場討議が行われ、同月二六日には中央委員会が開かれ被告銀行の修正回答を受け入れるとの執行部案が賛成多数で可決された。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

以上によれば、被告銀行と従業員組合とは十分な労使交渉を重ねたうえで本件定年制の実施に合意したものであること、従業員組合は被告銀行との合意にあたり十分な内部討議を行ったことが認められる。

なお、被告銀行は就業規則の変更について、従業員の過半数を組織する労働組合が団体交渉を行った結果使用者と労働組合との間で合意が成立した場合には、就業規則の変更について裁判所の事後的審査が及びうるのは、その内容が強行法規違反または公序良俗違反の場合に限られると解すべきであると主張するが、そのように解するのは相当ではなく、就業規則変更についての労働組合との交渉の経過及び労働組合との合意の有無は、あくまで就業規則の変更が合理的なものであるか否かの判断基準のひとつであると解するのが相当である。

3  以上(一)ないし(五)に認定した諸事情を総合して、検討すると原告に対する就業規則の変更については、それによる本件定年制の実施により原告が被る不利益の程度は少なくなく、その他の(二)ないし(五)に認定した諸事情を考慮しても、就業規則の変更による本件定年制の実施は、それの適用を受ける従業員にとって不利益なものであるにもかかわらず、これを使用者が一方的に実施適用することを正当化するに足りるだけの合理性を備えていると認めることはできない。

六次に、本件労働協約の効力が労働組合法一七条により原告に対しても及ぶか否かについて検討する。

1  原告が被告銀行の管理職であり従業員組合の組合員でないことは前記認定のとおりであり、被告銀行と従業員組合とが昭和五八年三月三〇日に本件労働協約を締結したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、本件労働協約締結当時、行員の総数は三五四五名であり、従業員組合にはその四分の三以上である三二〇五名が加入していたことが認められる。

2  そこで、まず、労働組合法一七条に規定する「一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったとき」に該当するか否かについて検討するに、同条にいう「一の工場事業場」とは、多数の本店、支店を有し、各本店、支店ごとの特有な労働条件の存在が考えられない銀行のような業種においては、個々の本店または支店ではなく企業全体を指すと解すべきであり、当該労働協約がその場所的適用範囲を特定の工場事業場に限定せず企業全体を対象としている限り、四分の三以上であるか否かは企業全体で判断するのが相当である。そして、本件労働協約が特定の本店または支店を対象としているものでないことはその規定から明らかであり、企業全体における従業員組合の組合員の占める割合は前記認定のとおりであるから、本件労働協約の締結により「一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至った」と解すべきである。

3  次に、原告が「当該工場事業場に使用される他の同種の労働者」にあたるか否かについて検討するに、「他の同種の労働者」とは当該労働協約の規定の内容から適用が予定されている者の全体を指すと解すべきであり、本件労働協約は被告銀行の全行員を対象とするものであることは明らかであるから、原告は管理職ではあるが、「他の同種の労働者」にあたると言うべきである。

4  原告は、本件労働協約には満五五歳達齢後の行員が最も打撃を受ける基本本俸と加算本俸の分割割合についての具体的な定めがないので、本件労働協約は労働協約としての効力を有しないと主張するので、この点について判断する。本件労働協約には、「五五歳未満者を含め、現行本俸を基本本俸、加算本俸に分割し、加算本俸は満五五歳達齢日の翌月一日以降支給しない。」との規定があるだけであり、基本本俸と加算本俸の分割割合についての具体的な定めがないことは原告の主張するとおりであるが、<証拠>によれば、本件労働協約締結に至る労使交渉においては基本本俸から差し引かれる加算本俸の具体的な額が明示され、労使間でその具体的な額について合意がなされており、その合意に基づいて本件労働協約が締結されていることが認められ、本件労働協約に基本本俸と加算本俸の分割割合についての具体的な定めがなくとも労使間においては加算本俸の具体的な金額は明らかであったというべきであり、本件労働協約はその具体的に明らかであった加算本俸の金額を前提にして締結されたものであるから、原告の主張は理由がない。

5  次に、原告は労働組合法一七条により労働協約に一般的拘束力が認められた趣旨は、労働協約の適用を受けない未組織労働者に対する不当な労働力の買いたたきを防止することによって労働組合の団結の維持強化を図り、さらには無権利な状態におかれた未組織労働者の労働条件を高めることによって等しく労働者の働く権利、生きる権利を保障しようとすることにあり、統一的な労働条件の設定を直接の目的とするものではないから、労働協約により労働条件が不利益に変更される場合には、未組織労働者には労働協約の一般的拘束力は及ばないと解すべきであるが、本件定年制の労働条件は本件定年後在職制度の労働条件より不利益なものであるから、本件労働協約の効力が労働組合法一七条により原告に及ぶことはないと主張するので、この点について判断する。

原告が主張するように、本件定年制の労働条件が本件定年後在職制度のもとにおける労働条件よりも原告にとって不利益なものであることは前記認定のとおりであるが、労働組合法一七条の規定の文言上からは労働条件の不利益変更の場合は労働協約の一般的拘束力は認められないと制限的に解釈すべき理由はないこと、労働組合法一七条の立法趣旨は、労働協約の適用を受けない未組織労働者が協約に定める基準より不利な労働条件で雇用されている場合には、労働組合の組合員と未組織労働者との不公正な競争が生じそれが協約基準の引下げへの圧力となり、また逆に未組織労働者が協約基準より有利な労働条件で雇用されていると、有利な労働条件を求めて組合を脱退する者が生じ組織を動揺させることになるから、これらの事態を未然に防止して労働組合の団結力の維持強化をはかること及び統一的な労働条件を設定することにあると解するのが相当であり、右の立法趣旨からすれば労働条件の不利益変更の場合にも労働協約の一般的拘束力は認められるべきであることによれば、労働条件の不利益変更の場合にも、特段の事情がない限り、労働協約の一般的拘束力が認められ、新しい労働協約の効力が未組織労働者にも及び、その労働条件は協約基準にまで引き下げられるものと解するのが相当である(なお、原告は労使間でユニオンショップ協定が締結されている場合には、未組織労働者が協約基準より有利な労働条件で雇用されていても有利な労働条件を求めて組合を脱退する者が生じ、組合の団結が阻害されるという事態が発生することはありえないと主張し、<証拠>によれば、被告銀行と従業員組合との間にはユニオンショップ協定が結ばれていることが認められるが、ユニオンショップ協定締結組合から脱退した後直ちに他組合に加入するか新組合を結成した者に対してはユニオンショップ協定の効力は及ばないと解すべきであるから、ユニオンショップ協定が結ばれている場合であっても有利な労働条件を求めて組合を脱退する者が生じ組織の団結が阻害されるという事態が発生するおそれがあるから、原告の主張は理由がない。)。

そこで、本件において右のような特段の事情があるか否かについて検討すると、勤務に耐え得る健康状態である男子行員の場合は本件定年制の方が本件定年後在職制度よりも不利益な制度であるといえるが、勤務に耐え得る健康状態ではない男子行員及び女子行員にとっては本件定年制の方が本件定年後在職制度よりも有利な制度であること、すでに認定したところから明らかなとおり、本件定年制の賃金水準それ自体をみれば不相当なものであるとはいえないこと、本件定年制の実施によって定年年齢を満六〇歳まで延長したのは、被告銀行の経営上の都合や必要に基づくものではなく、社会的要請と従業員組合の要求に応えるためであったこと、被告銀行には六〇歳に定年を延長することによる人件費の負担増に十分耐えうるだけの経営上の余裕はなく、六〇歳に定年を延長するにあたり、五五歳以降の賃金水準を見直す必要性は少なくなかったこと、被告銀行と従業員組合とは十分な労使交渉を重ねたうえで本件定年制の実施に合意したものであり、従業員組合は被告銀行との合意にあたり十分な内部討議を行っていること、男子行員については勤務に耐え得る健康状態である限り満五八歳まで本件定年後在職制度の適用を受けることができるということは事実たる慣習として労使双方に対する拘束力を有するに至ったものであり、原告が被告銀行との個別契約において獲得したものではないこと等によれば、原告に対して本件労働協約を適用することが著しく不当であると認められる特段の事情が存するとはいえず、本件労働協約の効力は労働組合法一七条により原告に及ぶと解するのが相当である(なお、原告は、労働組合は組合員の利益を公正に代表して使用者と交渉し労働協約を締結すべき公正代表義務を組合員に対して負っており、労働組合が従業員の四分の三以上を組織している場合には、労働組合法一七条により労働協約が非組合員に対して拡張適用されるのであるから、この場合には労働組合は非組合員に対しても公正代表義務を負うと解すべきところ、従業員組合は被告銀行の行員の四分の三以上を組織する労働組合であるから非組合員である原告に対しても公正代表義務を負っているにもかかわらず、従業員組合は本件定年制の実施により直接大きな打撃を受ける満五五歳達齢直前の中高年齢層の行員から十分に意見を聴取せずかつ本件定年制の実施によって最も不利益を受ける該当層の行員の処遇を配慮するなどの全行員の利害調整を誠実かつ合理的に行うことをせずに本件労働協約を締結しており、原告に対する公正代表義務に違反したというべきであるから、本件労働協約の効力は原告に対しては及ばないと主張するが、従業員の四分の三以上を組織する労働組合が労働協約の締結にあたり非組合員に対して公正代表義務を負っているか否か及び労働組合が公正代表義務を負っているとしてそれに反して労働協約が締結された場合に各非組合員が当該労働協約の効力が自己に対して及ばないことを主張しうるか否かはともかくとして、従業員組合は本件定年制の実施を被告銀行と合意するにあたり十分な内部討議を行っていることは前記認定のとおりであり、<証拠>によれば、昭和五八年三月二八日当時、四五歳から五〇歳未満の行員数三六〇人に対し組合員数は二二〇人で組合員の割合は61.1パーセントで、五〇歳以上の行員数四〇二人に対し組合員数二四〇人で組合員の割合は59.7パーセントであることが認められ、これによれば組合の内部討議には中高年齢層の声も十分に反映されていたものと解されるから、原告の主張は理由がない。)。

七そうすると、原告の本訴各請求のうち、昭和五九年一二月一〇日以降昭和六二年一二月一〇日まで本件定年後在職制度のもとにおける賃金と本件定年制に基づく賃金の差額及びこれに対する各支払期日の翌日以降支払済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払請求及び原告が被告銀行との間に昭和六二年一二月一一日以降昭和六四年一二月一〇日まで原告が本件定年後在職制度のもとで満五七歳台の時に取得する賃金と同額の賃金の支払を受けるべき労働契約上の地位を有することの確認請求はいずれも理由がない。また原告が被告銀行との間に昭和六二年一二月一一日以降昭和六四年一二月一〇日まで本件定年制による賃金の支払を受けるべき労働契約上の地位を有することの確認請求については、弁論の全趣旨によれば被告銀行はこの点を争っていないものと認められるから、確認の利益は認められない。

八以上のとおりであるから、原告の請求の趣旨第1項の請求及び第2項の主位的請求はいずれも失当であるから棄却することとし、原告の請求の趣旨第2項の予備的請求を却下することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小野寺規夫 裁判官髙橋徹 裁判官山本剛史)

債権目録(定例給与及び臨給の差額)

支払年月日

(A) 従来の制度による支払額

(B) 新制度による支払額

(C) 差額

(A)-(B)

備考

59.12.10

1,690,195

1,366,879

323,316

臨給(11月4日に55才となり一部減額)

12.20

454,870

396,770

58,100

60.1.20

454,870

396,770

58,100

2.20

454,870

396,770

58,100

3.20

454,870

396,770

58,100

4.20

470,570

408,670

61,900

(60/4より)賃上げ11,900

うち加算本俸に加算1,700

定昇2,100 (〃59,800となる)

5.20

470,570

408,670

61,900

6.20

470,570

408,670

61,900

6.21

1,650,191

642,055

1,008,136

臨給資格別定額(A)623,000 (B)268,000

7.20

470,570

408,670

61,900

8.20

470,570

408,670

61,900

9.20

470,570

408,670

61,900

10.20

470,570

408,670

61,900

11.20

470,570

408,670

61,900

12.10

1,745,445

668,055

1,077,390

臨給資格別定額(A)656,000 (B)294,000

12.20

470,570

408,670

61,900

61.1.20

470,570

408,670

61,900

2.20

470,570

408,670

61,900

3.20

470,570

408,670

61,900

4.20

484,270

418,870

65,400

(61/4より)賃上げ10,200

うち加算本俸に加算1,400

定昇2,100 (〃61,200となる)

5.20

484,270

418,870

65,400

6.19

1,689,241

644,055

1,045,186

臨給資格別定額(A)615,000 (B)255,000

19,000 (15,000)

6.20

484,270

418,870

65,400

7.20

484,270

418,870

65,400

8.20

484,270

418,870

65,400

9.20

484,270

418,870

65,400

10.20

484,270

418,870

65,400

11.20

484,270

418,870

65,400

12.10

1,789,195

671,056

1,118,139

臨給資格別定額(A)670,000 (B)302,000

原告57才達令ゆえ61/12より役付手当41,200(50,000引下げ)

12.20

484,270

368,870

115,400

62.1.20

484,270

368,870

115,400

2.20

484,270

368,870

115,400

3.20

484,270

368,870

115,400

小計

21,841,827

15,309,660

6,532,167

支払年月日

(A) 従来の制度による支払額

(B) 新制度による支払額

(C) 差額

(A)-(B)

備考

62.4.20

492,970

374,270

118,700

(62/4より)賃上げ5,400

うち加算本俸に加算1,200

定昇2,100 (〃62,400となる)

5.20

492,970

374,270

118,700

6.18

1,674,071

558,555

1,115,516

臨給資格別定額(A)602,000 (B)252,000

6.20

492,970

374,270

118,700

7.20

492,970

374,270

118,700

8.20

492,970

374,270

118,700

9.20

492,970

374,270

118,700

10.20

492,970

374,270

118,700

11.20

492,970

374,270

118,700

12.10

1,260,983

426,593

834,390

臨給原告58才達令で退職の場合

日割計算 127日分

12.11

546,062

184,662

361,400

(61下期と同じ計算)

臨給資格別定額(A)670,000 (B)302,000

12.20

492,970

374,270

118,700

63.1.20

492,970

374,270

118,700

2.20

492,970

374,270

118,700

3.20

492,970

374,270

118,700

4.20

492,970

374,270

118,700

(賃上げ、定昇なしと仮定)

5.20

492,970

374,270

118,700

6.19

1,674,071

558,555

1,115,516

臨給(62.6.18の臨給と同じ計算)

6.20

492,970

374,270

118,700

7.20

492,970

374,270

118,700

8.20

492,970

374,270

118,700

9.20

492,970

374,270

118,700

10.20

492,970

374,270

118,700

11.20

492,970

374,270

118,700

12.10

1,807,045

611,255

1,195,790

臨給(62.12.10,11臨給と同額)

12.20

492,970

374,270

118,700

64.1.20

492,970

374,270

118,700

2.20

492,970

374,270

118,700

3.20

492,970

374,270

118,700

4.20

492,970

374,270

118,700

(賃上げ、定昇なしと仮定)

5.20

492,970

374,270

118,700

6.19

1,674,071

558,555

1,115,516

(62.6.19の臨給と同じ)

6.20

492,970

374,270

118,700

7.20

492,970

374,270

118,700

8.20

492,970

374,270

118,700

9.20

492,970

374,270

118,700

10.20

492,970

374,270

118,700

11.20

492,970

374,270

118,700

12.10

1,260,983

426,593

834,390

臨給(62.12.10,11の臨給と同じ計算)日割計算 127日分

小計

25,672,326

15,301,408

10,370,918

合計

47,514,153

30,611,068

16,903,085

別表1

支払年月日

本件定年後在職制度による支払額

本件定年制による支払額

差額

59.12.10

1,692,995

1,366,879

326,116

12.20

453,670

396,770

56,900

60.1.20

453,670

396,770

56,900

2.20

453,670

396,770

56,900

3.20

453,670

396,770

56,900

4.20

469,370

408,670

60,700

5.20

469,370

408,670

60,700

6.20

469,370

408,670

60,700

6.21

1,652,831

642,055

1,010,776

7.21

469,370

408,670

60,700

8.20

469,370

408,670

60,700

9.20

469,370

408,670

60,700

10.20

469,370

408,670

60,700

11.20

469,370

408,670

60,700

12.10

1,748,245

668,055

1,080,190

12.20

469,370

408,670

60,700

61.1.20

469,370

408,670

60,700

2.20

469,370

408,670

60,700

3.20

469,370

408,670

60,700

4.20

483,070

418,870

64,200

5.20

483,070

418,870

64,200

6.19

691,881

644,055

1,047,826

6.20

483,070

418,870

64,200

7.20

483,070

418,870

64,200

8.20

483,070

418,870

64,200

9.20

483,070

418,870

64,200

10.20

483,070

418,870

64,200

11.20

483,070

418,870

64,200

12.10

1,791,995

671,056

1,120,939

12.20

483,070

368,870

114,200

62.1.20

483,070

368,870

114,200

2.20

483,070

368,870

114,200

3.20

483,070

368,870

114,200

4.20

491,770

374,270

117,500

5.20

491,770

374,270

117,500

6.18

1,676,711

558,555

1,118,156

6.20

491,770

374,270

117,500

7.20

491,770

374,270

117,500

8.20

491,770

374,270

117,500

9.20

491,770

374,270

117,500

10.20

491,770

374,270

117,500

62.11.20

491,770

374,270

117,500

12.10

1,263,783

426,593

837,190

12.11

184,662

12.20

374,270

63.1.20

374,270

2.20

374,270

3.20

374,270

4.20

384,630

5.20

384,630

6.19

558,555

6.20

384,630

7.20

384,630

8.20

384,630

9.20

384,630

10.20

384,630

11.20

384,630

12.10

642,335

12.20

384,630

64.1.20

384,630

2.20

384,630

3.20

384,630

4.20

394,990

5.20

394,990

6.19

558,555

6.20

394,990

7.20

394,990

8.20

394,990

9.20

394,990

10.20

394,990

11.20

394,990

12.10

426,593

総計

28,696,561

30,932,228

(注1) 本件定年制のもとでは,満55歳以降は「(基本本俸+扶養親族手当+役付手当)×3か月+資格別定額」という算定方式で賞与が支給されることになったが,夏と冬の振り分けの割合が証拠上明確でないため,S63.4のベースアップは,S63.12の賞与にすべて反映するものとして計算(611,255円+10,360円×3=642,335円)した。

(注2) S64の賞与については,夏と冬の振り分けの割合が証拠上明確でなく,冬の分については日割計算をしなければならないので,ベースアップが反映する分は考慮しなかった。

別表2

被補填年月

計算式

利息相当分

59.12

326,116×3×0.06

58,700

56,900×3×0.06

10,242

60.1

56,900×(35÷12)×0.06

9,957

60.2

56,900×(34÷12)×0.06

9,672

60.3

56,900×(33÷12)×0.06

9,388

60.4

5,216×(32÷12)×0.06

834

55,484×(33÷12)×0.06

9,154

60.5

60,700×(32÷12)×0.06

9,711

60.6

60,700×(31÷12)×0.06

9,408

197,386×(31÷12)×0.06

30,594

374,270×(32÷12)×0.06

59,883

374,270×(33÷12)×0.06

61,754

64,850×(34÷12)×0.06

11,024

60.7

60,700×(33÷12)×0.06

10,015

60.8

60,700×(32÷12)×0.06

9,711

60.9

60,700×(31÷12)×0.06

9,408

60.10

60,700×(30÷12)×0.06

9,105

60.11

60,700×(29÷12)×0.06

8,801

60.12

16,280×(28÷12)×0.06

2,279

384,630×(29÷12)×0.06

55,771

558,555×(30÷12)×0.06

83,783

120,725×(30÷12)×0.06

18,108

60,700×(30÷12)×0.06

9,105

61.1

60,700×(29÷12)×0.06

8,801

61.2

60,700×(28÷12)×0.06

8,497

61.3

60,700×(27÷12)×0.06

8,194

61.4

21,105×(26÷12)×0.06

2,743

43,095×(27÷12)×0.06

5,817

61.5

64,200×(26÷12)×0.06

8,346

61.6

277,335×(25÷12)×0.06

34,666

384,630×(26÷12)×0.06

50,001

384,630×(27÷12)×0.06

51,925

1,231×(28÷12)×0.06

172

64,200×(28÷12)×0.06

8,988

61.7

64,200×(27÷12)×0.06

8,667

61.8

64,200×(26÷12)×0.06

8,346

61.9

64,200×(25÷12)×0.06

8,025

61.10

64,200×2×0.06

7,704

61.11

62,399×(23÷12)×0.06

7,175

1,801×2×0.06

216

61.12

382,829×(23÷12)×0.06

44,025

642,335×2×0.06

77,080

95,775×2×0.06

11,493

114,200×2×0.06

13,704

62.1

114,200×(23÷12)×0.06

13,132

62.2

60,455×(22÷12)×0.06

6,650

53,745×(23÷12)×0.06

6,180

62.3

114,200×(22÷12)×0.06

12,561

62.4

117,500×(21÷12)×0.06

12,337

62.5

99,185×(20÷12)×0.06

9,918

18,315×(21÷12)×0.06

1,923

62.6

366,315×(20÷12)×0.06

36,631

384,630×(21÷12)×0.06

40,386

367,211×(22÷12)×0.06

40,393

27,779×(22÷12)×0.06

3,055

89,721×(23÷12)×0.06

10,317

62.7

117,500×(22÷12)×0.06

12,924

62.8

117,500×(21÷12)×0.06

12,337

62.9

70,269×(20÷12)×0.06

7,026

47,231×(21÷12)×0.06

4,959

62.10

117,500×(20÷12)×0.06

11,749

62.11

117,500×(19÷12)×0.06

11,162

62.12

276,324×(18÷12)×0.06

24,869

394,990×(19÷12)×0.06

37,524

165,876×(20÷12)×0.06

16,587

利息相当分総計 1,213,612

(注1) 利息相当分の計算にあたっては,1円未満は切り捨てた。

(注2) 本件定年後在職制度のもとで,S59.12.20に2,146,665円(1,692,995円+453,670円),S62.12.20に1,260,983円が,本件定年制のもとでS59.12.20に1,763,649円(1,366,879円+396,770円),S62.12.20に985,525円(426,593円+184,662円+374,270円)が支払われるものとして計算し,以後の6月分及び12月分についても同様に計算した。

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